
本コラムでは、歯科医院経営の成否に大きく影響する「スタッフの採用と定着」をテーマにお届けします。
組織規模がそれほど大きくならない歯科医院では、スタッフ一人が退職するだけでも、引継ぎや仕事品質の維持、新たな採用コスト、人間関係のバランスなど運営にも大きく影響します。
特に、最近多くの歯科医院で課題となっている「定着(スタッフが辞めない医院づくり)」について、組織運営の土台として欠かせない「心理的安全性」の観点から詳しく解説していきます。
採用市場の現状と課題

深刻化する人材不足
歯科衛生士の有効求人倍率は、2009年の10.2倍から2023年には23.3倍にまで上昇しました。
これは、1名の歯科衛生士に対して23もの医院が求人を出しているという、極めて厳しい状況です。
さらに、「週休3日 35万円~ 18時退勤 残業なし」といった好条件を提示する歯科医院も増加しており、求人条件の格差は拡大する一方です。
採用難による歯科医院経営への影響
このような状況下では、従来のやり方では優秀な人材を採用することは難しく、採用コストの高騰や、人材不足による業務の停滞、既存スタッフの負担増加など、歯科医院経営に深刻な影響を与える可能性があります。
求人媒体の多様化と効果的な活用
従来の求人誌やハローワークに加え、近年では歯科衛生士専門の求人サイトや、SNS、人材紹介、就職フェアなどを活用した求人活動も多岐に渡っています。
それぞれの媒体の特徴を理解し、自院の求める人物像に合った媒体を効果的に活用することが重要です。
採用コストの増加
求人倍率の上昇に伴い、採用コストも増加傾向にあります。
求人広告費や人材紹介会社への手数料など、多額の費用が発生するケースも少なくありません。
限られた予算の中で、いかに効率的に採用活動を行うかが課題となっています。
またせっかく採用した人材が、短期間で退職してしまうケースも少なくありません。
これは、求職者と医院側のミスマッチが原因であると考えられます。
採用面接の際に、自院の理念やビジョン、求める人物像などを明確に伝え、求職者との相互理解を深めることが重要です。
今、歯科医院に必要なのは…「求職者に選ばれる医院作り」と「今いるスタッフが辞めない環境作り」の両立が、これまで以上に重要になっています。
「スタッフが短期間で辞めてしまう医院」と「スタッフが辞めずに働き続けてくれる医院」それぞれの共通点を検討した結果、ある重要な要素が浮かび上がってきました。
それは、「心理的安全性」です。
心理的安全性とは?

心理的安全性 (Psychological Safety) とは、組織の中で、「自分の意見や考えを自由に発言しても、否定されたり、攻撃されたり、不利な扱いを受けたりする心配がない」と感じられる状態を指します。
心理的安全性の高い医院の特徴
- スタッフ同士が互いに尊重し合い、助け合っている
- 失敗を恐れずに、新しいことにチャレンジできる雰囲気がある
- 上司や同僚に相談しやすい環境がある
- 意見やアイデアを自由に発言できる
心理的安全性が低い医院の特徴
- 上司や同僚の顔色を伺い、発言を控える傾向がある
- 失敗をすると、責められたり、叱責されたりする
- 相談しにくい雰囲気があり、問題を一人で抱え込んでしまう
- 新しいアイデアや意見を提案しにくい
心理的安全性の高い医院では、スタッフが安心して働くことができ、その結果、定着率の向上、業務パフォーマンスの向上、創造性の発揮、組織全体の活性化などに繋がると言われています。
心理的安全性を高める具体的な行動
心理的安全性を高めるためには、院長先生をはじめ、スタッフ全員が意識して行動することが大切です。
1. 傾聴と共感
スタッフの意見や感情にしっかりと耳を傾け、共感を示すことが重要です。
「なるほどね、そういう考え方もあるね」「大変だったね、よく頑張ったね」など、相手の気持ちに寄り添う言葉をかけましょう。
例えば、定期的な面談の時間を設け、スタッフ一人ひとりの話をじっくり聞く機会を設けるのも良いでしょう。 面談では、仕事のことだけでなく、プライベートのことや将来のキャリアプランなど、幅広いテーマについて話し合うことで、スタッフとの信頼関係を築くことができます。
2. 失敗の許容
失敗は誰にでもあるものです。
失敗を責めるのではなく、そこから何を学び、どのように改善していくかに目を向けましょう。
「失敗は成功のもと」という言葉があるように、失敗を成長の糧として捉えることが重要です。 具体的には、失敗が起こった際に、まずは状況を把握し、なぜ失敗が起こったのかを冷静に分析することが重要です。 その上で、再発防止策を検討し、実行していくようにしましょう。
また、失敗を恐れてチャレンジすることをためらってしまうような雰囲気にならないよう、日頃から「失敗しても大丈夫」というメッセージを発信していくことも大切です。
3. 多様性の尊重
スタッフ一人ひとりの個性や能力、考え方などを尊重しましょう。
多様な意見を歓迎することで、より良いアイデアが生まれ、組織全体の成長に繋がります。 年齢や性別、経験、価値観などの違いを認め、それぞれの個性や能力を活かせるような環境を作るように心がけましょう。
例えば、異なる意見が出た場合には、それぞれの意見の良い点を認め合い、より良い結論を導き出すようにしましょう。 また、多様な働き方を許容することで、それぞれのライフスタイルに合わせた働き方ができるよう配慮することも重要です。
4. 透明性のあるコミュニケーション
医院の経営状況や方針、診療内容などを、スタッフに分かりやすく説明しましょう。
情報共有を徹底することで、スタッフの不安や不信感を解消し、安心して仕事に取り組める環境を作ることができます。
例えば、朝礼や終礼で医院の状況を共有したり、院内報やメールマガジンなどを活用して情報を発信したりするのも良いでしょう。 また、スタッフからの質問や意見を随時受け付けられるような体制を整え、双方向のコミュニケーションを促進することも重要です。
5. 肯定的なフィードバック
スタッフの良いところや頑張りを認め、積極的に褒めるようにしましょう。
「ありがとう」「助かったよ」「よく頑張ったね」など、感謝の気持ちを伝えることで、スタッフのモチベーションを高めることができます。 具体的には、日々の業務の中で、スタッフの良い行動や成果を見つけた際に、その場で感謝の気持ちを伝えるようにしましょう。
また、定期的な面談の場を設け、これまでの頑張りを評価し、今後の目標やキャリアプランについて話し合うことも有効です。
心理的安全性を損なう行為
心理的安全性を損なう行為は、スタッフのモチベーションやパフォーマンスを低下させ、離職率を高める原因となります。
1. 否定や批判
「それは無理」「そんなのダメに決まってる」など、頭ごなしに否定するような発言は避けましょう。
相手の意見を尊重し、まずは「なるほど」「そういう考え方もあるね」と受け止めることが大切です。 否定的な意見を言う場合でも、「貴重な意見をありがとう。ただ、この点については少し懸念があります」 のように、相手の意見を尊重する姿勢を示すことが重要です。
2. 個人攻撃
「なんでできないの?」「あなたのやり方が悪い」など、個人を攻撃するような発言は、相手を傷つけ、信頼関係を損なう原因となります。
問題解決に焦点を当て、建設的な議論を心がけましょう。 問題が起こった際には、「なぜこのような問題が起こったのか」 「どのようにすれば改善できるのか」 といった点に焦点を当て、個人ではなく、問題そのものを解決しようとすることが重要です。
3. 情報隠蔽
情報を一部のスタッフだけに共有したり、重要な決定を独断で行ったりすることは、不信感を招く原因となります。できる限り情報をオープンにし、スタッフを巻き込んだ意思決定を心がけましょう。
例えば、新しい機器を導入する際には、スタッフに事前に説明を行い、意見を聞く機会を設けるのも良いでしょう。 また、医院の経営状況についても、可能な範囲でスタッフに開示することで、より一層の協力体制を築くことができます。
4. 無視や軽視
スタッフの意見や提案を無視したり、軽視したりすることは、モチベーションを低下させるだけでなく、
「どうせ言っても無駄だ」という諦めの気持ちを生み出す可能性があります。
どんな意見にも耳を傾け、真剣に向き合う姿勢を示すことが重要です。 たとえ実現が難しい提案であっても、「貴重な意見をありがとう。検討させていただきます」 と感謝の気持ちを伝えるとともに、なぜ実現が難しいのかを丁寧に説明することで、スタッフの理解を得ることができます。
心理的安全性の高い医院を作るために

心理的安全性の高い医院を作るためには、院長先生をはじめ、スタッフ全員が意識して行動することが大切です。
- 日々のコミュニケーションを大切にする
- 互いに尊重し合い、助け合う
- 失敗を恐れずにチャレンジする
- 積極的に意見交換を行う
- 感謝の気持ちを伝える
これらのことを実践することで、スタッフが安心して働ける、より良い医院を作ることができるでしょう。
スタッフが働き続けてくれる医院へ
心理的安全性は、院長先生とスタッフ全員が協力して作り上げるものです。
一朝一夕にできるものではありませんが、日々の積み重ねによって、必ず変化していくことができます。
とはいえ、労使の関係にあり、男女の違い、知的レベルや生活レベルなど、院長とスタッフとの心の距離は遠く、なかなか思うようにコミュニケーションを深めることは難しいという歯科医院が多いのも事実です。
もし、「スタッフが働き続けてくれる歯科医院を作りたい」という思いを形にするのが難しい場合は、私たち「Mr.歯科事務長」の活用をご検討ください。
これまで培ってきた歯科医院経営サポート経験とノウハウを活かし、医院様のオリジナルの成功と繁栄をサポートさせていただきます。
みなさまの歯科医院経営の繁栄をお祈りいたします。

この記事の解説者
Mr.歯科事務長
信田 学 Manabu Nobuta
神奈川県出身 血液型O型
大学在学中、インディーズレーベルよりCDデビューを果たし、音楽活動によるボランティアや多くの人々とのコミュニケーションを通じ実社会の厳しさや人の暖かさを実感する機会にも恵まれました。
一部上場企業での勤務や、ITベンチャー企業での分社立上げ・運営を経験後、歯科医院向けコンピューターシステムのコンサルティング営業に従事し、日本全国の数百歯科医院を担当。No1営業の達成経験やマネージャー経験を活かし、より深く医院の成功実現に寄与したいとの想いからMOCALに転職を決意!
休日は一児の父、2匹の猫親として日々奮闘中。色々な役割の中で、学びを得て成長しています。