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このコラムでは、歯科医院のマネジメントで多くの院長が苦慮する「スタッフの反発」「無言の非協力」を解決するためのポイントについてご紹介します。
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「なんでそんなことやらないといけないんですか」
「やりたいなら院長だけでやればよいのに」
「いつも私ばかりやらされている」
などとスタッフから言われたことはありませんか?
多くの歯科医院では、院長がスタッフに何かを依頼する際にすんなりと受け入れて進めてくれるケースは非常にまれであると感じます。
特に“これまでとは違う新しい取り組み”に対しては上記のような反発ともとれる反応を受けることが多いのではないでしょうか?
数多くの院長が頭を悩ませる、“新しい取り組みの導入”をスムーズに進める「コミュニケーションのコツ」について考えていきましょう。
歯科医院によくある「新しい取組が進まない理由」
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- 新しいことを始めようと思ってもスタッフがついてこない
- 良い取り組みなのに抵抗されて落とし込めない
- スタッフが主体的に取り組んでくれない
などご経験のある院長も多いのではないでしょうか。
院長としては、「医院にとっても患者さんにとっても良い取り組みでぜひとも進めていきたい」と考えているのに実行の中心である肝心のスタッフは無関心どころか、抵抗もしてくる、、、
ではなぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
スタッフが高いモチベーションをもって自ら医院改革に取り組み、企画から実践までやってくれる状況であれば、このような困りごとは起こりません。そのような状況をどのようにつくっていけばよいのでしょうか?
実際に、院長とスタッフの間に入って仕事をする私たちの耳に入ってくる本音として、
- 「いまでも忙しいのに新しいことをやると更に大変になる」
- 「いまのままで何か問題あるのかな?」
- 「(自分以外の)誰かがやってくれればよい」
- 「どうせすぐやらなくなるんじゃないの?」
などあまり積極的ではない「言葉」が多いのが現状です。
しかし、よくよく話を聞いてみると、これは、スタッフのやる気に問題があるのではなく、スタッフにとって”やるべき理由”が見当たらない、または理解できないことに原因があることが見えてきました。
「動機」が低いと「やらされ感」がでてくる
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この「やるべき理由」を考えるにあたり、心理学における「動機」についての知見が役に立ちます。
「やるべきこと」「やらなければならないこと」に対処する際に、その人が「仕事や物事に対してどのような動機」を持っているのかによって「ネガティブ」に受け取るか、「ポジティブ」に受取るか、の反応が変わります。
「動機」には4段階があると言われています。
やりたくないのにやらなければならない状況に追い詰められているという意識で、不快な出来事を避けることが主の動機となっているレベル
自分自身がやるべき理由や目的がなく、「やらなければならないから」、という義務感や無意識の思い込みによって行動するレベル
やりたい理由、やらなければならない自分なりの動機が明確になっているレベル
これをやるのは、自分以外に誰がいると信じ込む程強く動機に勢いがあり意欲的なレベル
①②番目は行動の動機が「受動的」になっており、医院でもよく起こる「どうしてやらないといけないのか」という「受け身の姿勢」、そこから「やらされ感」という反応が生じることになります。
③④番目は行動の動機が「主体的」になっており、「自分事」として物事を進めていくため、強い推進力が生まれます。
動機を高める「大義名分」
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京セラを世界的企業に成長させ、日本航空を再建するなど「経営の神様」と呼ばれた京セラの稲盛和夫氏は、経営12カ条の中の第1条に、
「事業の目的、意義を明確にする」~公明正大で大義名分のある高い目的を立てる~
と掲げており、経営において大義名分を掲げることをとても重要視しています。
「大義名分」とは、普遍的な価値があると認められている考え方や行動と考えれば分かりやすいでしょう。もっとかみ砕けば、「人のため、社会のため、国家のため」など、多くの方や関わる世界に対しての愛や奉仕と言えます。
歯科医院の運営でいえば「患者さんのため」「スタッフの成長や物心両面の幸福」「チームメンバーのため」「医院が存続することが社会のためになること」などでしょう。
「大義名分」を掲げ、スタッフの動機のレベルを上げることで、少なくともスタッフにとって、この業務をやりたい理由、やらなければならない理由が頭で理解できるようになります。
また、これが腑に落ちれば、主体的に行動ができるようになります。
そうなると、必然的に医院で取り組みたい事項も大きく前進をしていくことに繋がります。
「大義名分」を掲げるというと、大企業が行うことであったり、経営に長けた経営者が行う、大掛かりなことのように感じられるかもしれませんが、新しく取り組もうとしていることの「意義」や「目的」をスタッフにとって分かりやすい言葉に咀嚼して伝えることで、スタッフが具体的にイメージすることができ、行動に移しやすくなります。
「かみ砕いて伝える努力」が動機を高める
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実際に、新しい取り組みの導入を成功させた医院の事例を紹介します。
私の担当している医院では、先の診療報酬改定に伴い、口腔機能関連を新たに取り入れる際、ただ単に、改定により点数が取れるようになる、というだけではスタッフは動いてくれないと想定し、しっかりと時間を取り、説明用の資料を作成し、以下のような話をして導入の意義を丁寧にお伝えされました。
- 口腔機能に取り組むことは歯の治療だけでなく、お口と全身に関係したものである
- いま通っている患者さんの将来にわたって良い影響を与えられるものである
- 生涯にわたるお口と全身の健康を目指す医院として、この取り組みは必要なものである
- みんなが口腔機能を取り組むことで地域の患者さんの健康に貢献ができる
これにより、口腔機能に取り組むことは、院長からの「やらされ仕事」ではなくなり、「自分たちが患者さんのために貢献できる素晴らしい取り組みを作り上げることができる」という認識に変化をしたのです。
さらに、各スタッフに口腔機能導入までの役割分担を明確に指示し、一人ひとりに新規事項への関与を深めることにより、スタッフ全員が自分事として取り組むことを意識づけていきました。
このように院長がスタッフの視点に立ち、スタッフが理解できるようにかみ砕いて伝えたことで、スタッフにとっても新しい取り組みについて”やるべき理由”と“やるべきこと”が明確になったため、スタッフ自らが考え、実践に移すことができ、スムーズな口腔機能関連の取り組みの導入に成功をしました。
またこちらの医院では、スタッフの提案でこども用の可愛らしいトレーニンググッズを物販棚に置いたところ、親御さんだけではなく、高齢者の方がお孫さん用にと商品を手に取られたり、ついでにご自身の口腔ケアグッズも購入されたりするなど、物販売り上げも1.3倍に増えるといった副次的な効果も見られました。
日常の小さな取り組みにも「大義名分」を
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経営理念やビジョンなどには、当院の社会的意義や地域貢献などを掲げている医院も多いと思いますが、経営理念だけでなく日常の小さな取り組みについても大義名分を掲げ、スタッフに丁寧に伝えることで、スタッフも共感し自ら動いてくれるようになります。またこうした取り組みが定着すれば医院の取り組み全体がスムーズに進んでいきます。
スタッフが言うことを聞いてくれない、主体的に動いてくれないと現状を嘆くのではなく、業務一つ一つについて、その重要性を丁寧に誠意をもって伝えていくことにより、反対していたスタッフたちがとても心強い味方となって、その事業を推進してくれる原動力に変わっていきます。
費用も掛からず、大きな効果も期待できる取り組みですので、新しい取り組みの導入に苦労している院長は、こうした丁寧なコミュニケーションを厭わずに、ぜひ実践をされることをお勧めいたします。
まとめ
このコラムでは、歯科医院の運営でよくありがちな「スタッフの抵抗」「非協力」を解決するための、コミュニケーション方法として「大義名分」を掲げるというコツをお伝えしてきました。
院長お1人では大義名分を掲げて伝えるのが難しい、大義名分が院長個人のメリットに受け取られてしまう場合もあるかもしれませんが、その際は、幹部スタッフにも一緒に大義名分をお伝えしてもらうことや、我々のようなアウトソーシング事務長など外部リソースをつかって第三者的な視点からもお話を入れて頂くのも効果的です。
みなさまの歯科医院経営の繁栄をお祈りしております。
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この記事の解説者
Mr.歯科事務長
高橋 浩一 Koichi Takahashi
千葉県出身 血液型AB型
前職時代の大手歯科診療サポート会社にて13年間勤務する中で、歯科検診業務や新規開発部門、歯科事務長を経験する。
事務長職の際、診療の腕も良くホスピタリティマインドもあり、人間性に優れているのに、経営のスキルが無かったためにご自身の医院を廃業してしまった先生とお会いする経験があった。
そのような先生を事務長としてサポートすることができれば、医院の成功と業界の発展に貢献できるという思いがあった中、MOCALに出会う。
「MOCALなら、全国に事務長を展開できる可能性がある!自分が考えていた事が実現できる!」と思い、この新しい歯科経営サポートモデルの普及に参画することを決意する。
現在、経営参謀プラン担当事務長として複数の医院様の繁栄を縁の下の力持ちとなって支えている。