院内の空気は「院長の心の鏡」~怒りの制御がパフォーマンスを改善する~

本コラムでは、歯科医院の運営に影響を与えている「院長の怒りの感情」の影響と、感情をコントロールするための工夫についてご紹介します。

歯科医院の院長先生は、診療や運営のみならず、事業体として外部に対しても全責任を担い、その重責から多くのストレスを抱えることを余儀なくされています。

こうした状況から感情的にブレることは避けられないことではありますが、その結果自体も、自分自身に重くのしかかってきます。 特に「怒りの感情」は院内全体のパフォーマンスを思った以上に低下させていくことを意識し、上手にコントロールしていく工夫ができれば、逆に大きなプラスのエネルギーに変えていくことも可能です。

目次

院内の空気は「院長の心の鏡」

日々、歯科クリニックの経営に全力を尽くされている院長先生は、診療中は医院の稼ぎ頭として、診療に追われ、売上の管理、スタッフのフォローやケア、行政へ提出する書類の作成、スタッフの給与計算、勤怠管理、有給管理と、歯科医院経営の実務をお一人で行われている先生も多いと思います。

経営者として目が回るほどの多忙のなかで、ふと「院内の空気、雰囲気が悪いな」と感じたことはありませんか?

これは歯科医院に限らないのですが、組織においてはトップである経営者や組織の長の感情が、組織全体に影響を及ぼすことがあります。

院内の雰囲気や空気が重い、なぜか殺伐としていると感じられた時、もしかしたら先生の感情が院内に影響を与えているのかもしれません。

ベストセラーとなった「鏡の法則」などでも指摘されているように、院内の空気は「院長の心をそのまま映し出している」という観点から、立ち止まって点検することは、医院運営でつまずかないための、とてもとても有効な手段です。

「怒り」の感情がスタッフのパフォーマンスを低下させる

普段はお優しい先生も目が回るほどの多忙の中で、段々と「全て自分ひとりでやっている。どうしてスタッフは助けてくれないのか。どうして自分の思い通りに動いてくれないのか。」という心境に押し流されていくことがあります。

すると、普段は良好なコミュニケーションが取れている筈のスタッフに対し、忙しさのあまり「怒り」の感情がムラムラと湧いてくる、このような経験がある方も多いのではないでしょうか。

人間には大きく分けて4つの感情「喜怒哀楽」があり、今回はその中でも、医院運営への影響が大きい「怒り」について考えてみたいと思います。

古来、人間の「怒り」はうかつに触ると火傷をしてしまうことから、しばしば「火」に例えられてきました。
「怒り」は冷静さや自我を失い、感情のままに周囲を攻撃し相手を傷つけてしまいます。

怒りの火が収まった後、怒った側はその怒りを忘れてしまいますが、怒りをぶつけられた相手は後々までその事を覚えているものです。

「怒り」は人を委縮させることが指摘されています。

特に、組織の中で上下関係がある場合、部下からすると「上司が怒ってイライラしている」と、その怒りが自分に向けられないよう、言われたことや指示された事以外はしなくなり、自然と部下の表情や言葉も暗くなってしまいます。

そうなってしまうと、院長や同僚への対応だけでなく、お客様である患者様への対応も不十分なことになってしまい、院長は部下のネガティブな行動や発言を見て、更に怒りを覚えるという悪循環に陥ってしまいます。

大業を成すために怒りを戒める

「怒り」の火が強いと、その火は相手だけでなく、自分自身をも焼き尽くしてしまうことから、古来より洋の東西を問わず、大業を成した偉人は「大業を成すのであれば怒りを戒めよ」と、自己を厳しく律してきました。

歴史上の偉人達は「感情」に対して多くの格言を残していますので、少しご紹介したいと思います。

人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。
急ぐべからず。
不自由を常と思えば不足なし。
こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。
堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。
勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。
おのれを責めて人をせむるな。
及ばざるは過ぎたるよりまされり。

徳川 家康

「怒りを遷さず」
八つ当たりをせず、腹の立つことがあっても、それを関係のない人に向けてはならないという戒め。

孔子

忍激の二字は、これ禍福の関なり
怒りを覚えた時、じっとこらえて辛抱するか、一時の感情にかられて怒りを爆発させるか、どちらをとるかが幸と不幸の分かれ目となる戒め。

呂新吾(呻吟語)

腹が立ったら、何か言ったり、したりする前に十まで数えよ。
それでも怒りがおさまらなかったら百まで数えよ。
それでもダメなら千まで数えよ。

トーマス・ジェファーソン

自己コントロールのための時間を作る

以前、私が担当したクリニックの院長から「スタッフが定着せず、すぐに辞めてしまう」と、ご相談を頂いたことがありました。診療現場に大きな問題があるのかと、そのクリニックのスタッフさんと面談を行い、様々なお話しを聞く事が出来ました。

スタッフが定着せず辞めてしまう最も大きな原因は、診療中の院長先生の姿でした。

その先生は、私に対しては言葉も態度も丁寧だったのですが、診療中忙しくなってくるとピリピリしはじめ、スタッフへの言葉が荒くなり、ほんの些細なミスとも言えないような事に対しても、スタッフを追い詰める様な対応をしていたのです。

ですが、院長先生がピリピリしてしまうやむを得ない背景もありました。

院長のアポは基本保険治療20分、自費治療30分で設定されていて、当然ながら1日の全てのアポが埋まっており、治療をしながらスタッフへの指示出し、メンテ時のドクターチェックなど、息をつく暇もないほどの忙しさで診療に追われてしまい、院長先生も無意識のうちにスタッフへの当たりがきつくなってしまっていました。

そこで、まず私がそのクリニックの院長先生に提案して実行した事は、次の2点でした。

  • 午前診療、午後診療の院長アポイントのうち保険治療の1枠をブロックし、院長が一息いて落ち着く時間兼院内の状況を把握する時間帯を作る。(午前診療 9:00~13:00なら11:00~11:20の枠をブロック)
  • メンテ時のドクターチェック等、スタッフが院長に伝えるべき内容を、新たに作成した伝達用紙に記入する仕組みとする。院長・スタッフ間の口頭でのやりとりを出来るだけ省略して効率化。

院長のアポイントをブロックすることは、当然ながらその分の売上は落ちてしまいます。

しかし、院長が診療に追われ「怒り」を孕んだ姿で院内にいることで、スタッフは院長に怒られないよう必要最低限のことしかせず、常に院長の怒りに怯えて委縮してしまい、その結果としてスタッフが退職し定着しないということになってしまいます。

クリニックの経営状況にもよりますが、多少売り上げに響いても院内の空気を換える措置が必要なこともあります。短期的に多少の損となっても、スタッフが能力を発揮できる環境を整えられれば、診療の質が上がり定着率も改善し結果として売り上げも向上します。

心の余裕が医院とスタッフの成長エネルギーに

さて、ここまで「怒り」という感情が及ぼす悪影響をご紹介させて頂きました。
院長は歯科クリニックの経営者として「常に心に余裕」を持ち、スタッフがのびのびと楽しく仕事ができる環境を作ることも大事な仕事の一つです。

院長の心に余裕があれば、自然と笑顔が多くなり、スタッフにも優しい労わりの言葉を掛け、スタッフの自発的なプラスアルファの行動や発言を褒める事ができます。

そうすることでスタッフも笑顔が増え、伸び伸びと働き、自発的に医院の成長発展に貢献しようと思う事でしょう。

歯科医院の経営は院長一人では成り立ちませんし、院長一人の力では組織の成長にも限界があります。

医院を大きくしたい、自分の理想とする診療システムを作りたい、様々な目標や志をお持ちだと思いますが、その実現にはスタッフの協力は絶対に欠かせない重要な要素です。

経営者として常に冷静で心に余裕を持ち、しっかりと部下をマネジメントする事が必要です。

先生の感情や心の機微が院内の空気や雰囲気に大きな影響を与えることから、出来る範囲で日々の診療に余裕を持てる環境を作り、半年に一度、「自分は仕事に追われていないか、スタッフは委縮していないか」院内の様子を見る時間を作ってみてはいかがでしょうか。

最後に、人材育成の名手と言われた日本海軍 山本五十六元帥の言葉をご紹介致します。

やってみせ
言って聞かせてさせてみて
褒めてやらねば人は動かじ

話し合い
耳を傾け承認し
任せてやらねば人は育たず

やっている姿を感謝で見守って
信頼せねば
人は実らず

山本 五十六

まとめ

このコラムでは歯科医院の運営に影響を与える「院長の怒りの感情」について、そのコントロールの重要性と工夫策をご紹介しました。

患者さんへの診療のみならず、スタッフの生活や取引先への責任など、重責を常に背負われている院長にとっては厳しい指摘と感じられたことかと思います。

Mr.歯科事務長サービスでは、孤軍奮闘で身も心もハードワークにさらされている「院長が何でも相談できるパートナー」として、また「院長の想いや戦略を具体的に実現する頼もしい実務者」として、真摯に歯科医院経営のサポートをさせていただいています。ぜひお気軽にご相談ください。

みなさまの歯科医院経営のご成功、繁栄をお祈りしております。

この記事の解説者

Mr.歯科事務長

潮平 大賢 Hirotaka Shiohira

沖縄県出身 血液型A型

約10年間、品質が最も厳しいとされる金融プロジェクトにおいてIT・通信サービスの大規模PJに携わる。

顧客のカウンターパートを担当し、様々なイレギュラーやトラブル対応を経験、コミュニケーション力と、いかなる状況でも慌てない平静心を培う。

仕事で最も大事なことは「信頼ある人間関係の構築」と「ごく基本的なことが、より困難な課題やハードルの高い目標に挑戦するためには大事」であることを学び信条としている。

現在は経営参謀プラン担当事務長として、スタッフマネジメントから業績向上、資金調達から事業継承まで、歯科医院経営のあらゆる課題を受け止めサポートしてきた実績を持つ。多くの院長先生からは何でも相談できる、安心できるキャッチャーのような存在として、日々院長先生をお支えしている。

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