このコラムでは歯科医院経営で多くの院長がお悩みの「マネジメント」のポイントをお伝えしています。
歯科医院の経営、日々の事業運営は「判断」の連続です。
- アポイント枠の時間をどうするか?
- この人をスタッフに採用するか?
- 誰を受付に使い、誰をアシスタントに使うか?
- ホームページにどんな情報を掲載するか?
- 患者さんに何を説明するか、誰にさせるか、ツールはどうするか?
- 勤務医にどこまで仕事をさせるか、衛生士にどの程度の仕事をさせるか?
- スタッフ同士の人間関係に問題があるがどう処理するか?
- 昇給や賞与はどうするか?何を基準にするか?差はつけるか、つけないか?
- 産休から帰ってくるスタッフをどう働いてもらうか?
- 誰をチーフにするか?どのように話をするか?
- 院内の情報共有をどのように行うか?
- ミーティングはどのような頻度、内容で行うか? 有休のとり方は?夏期や年末年始の休暇はいつにするか?
組織のトップである院長は、毎日毎日、新しい課題に直面し、時々刻々と判断を行わなければいけない立場です。
そして、判断の結果として、患者さんからの支持、スタッフの生産性、医院の規模や利益という客観的な評価となって表れてきます。
言い換えれば、現在、成功し発展している院長は「成功する判断を積み重ねている」と言えますし、その逆に、何年も同じ経営状況が続いている院長は「現状維持の判断を積み重ねている」と言えます。
そして、私がお付き合いしてきた成功している院長の特徴は、「よく勉強していること」、そして「相談できる相手」を持っていることでした。 今回は、経営者として望む成果を上げるうえで、なぜ「相談できる相手」を持つことが有効なのか?について、その理由を紹介します。
同業の友人には相談しにくい現実
実際、いま経営について相談できる相手は持っていますか?
我々が歯科医院の院長のお話を聞いていても、同業の友人には相談しにくいし、一部、先輩に時々相談するくらいかな?という方が多いようです。
実際には同業としてのプライドや、友人としての人間関係を壊さないために、当たり障りのない話で終始してしまうのが現状ではないでしょうか。
経営学者のドラッカーは「第三者の立場にいる相談相手を持つ」ことの重要性を指摘しています。
なぜ「第三者の立場にいる相談相手を持つ」ことが重要なのでしょうか? その理由には、次の3つが挙げられます。
自分の「考え方のクセ」や「ワンパターンな判断」を修正してくれる
「会社の業績はトップ1人で決まる」と多くの経営書で書かれているように、院長の「経営判断」や「物事の処理の仕方」で経営の成果が決まります。
例えば、歯科衛生士のコミュニケーションスキルや仕事能力により、患者さんが離脱したり、クレームを受けることはありますが、経営的な成果の観点から言えば微々たる影響で、実際には、メンテナンスのアポイントを何分にするか、手技や説明の内容、手順をどう仕組み化するか、どのような人材を採用するかの基準や、面接の仕組みなど、経営者の判断によってほとんどの成果が決まっています。
そして、この経営のベースになる判断には、必ず、院長の個性、価値観からくる「考え方のクセ」が影響しており、意識しなければいつも「ワンパターンな判断」を繰り返しているのが現状です。
いつもの「何気ない判断」で実はチャンスを逃していることや、「何気ない一言」でスタッフのやる気を削ぎ、生産性を落としているシーンを繰り返していないでしょうか?
こうした「ワンパターンの判断」が「何年も事業が成長しない」という結果につながっているのです。
そんな時、第三者の立場から「前回、失敗した時と同じ判断をしていますよ」という指摘があれば、前回とは違った「判断」⇒「「結果」をつくることが可能になります。
例えば、売上が必要な時に、「値下げ」や「キャンペーン」という判断を繰り返す院長がいました。 実際に、一時的に売上が上がるものの、収支が改善しない状況が何年も続いていたため「値下げではなく、患者さんへの情報提供、患者教育に力を入れたほうがよいのでは?」という視点から考え直し、取り組み方法を変えたところ、収支構造が向上したという例がありました。
日常に埋没してしまうと、自分や組織を客観的に見られなくなる
経営をしていると業績の伸び悩みの壁が必ず出てきます。
例えば、「いままで順調に右肩上がりだったレセ数が横ばいになる。」
また「ユニットを増やしたが思うように業績に反映しない。」等、
「何かをしなければこれ以上は伸びない」という経営の壁が繰り返し目の前に現れます。
この時に「いま何が必要なのか?」「どこがボトルネックになっているのか?」など、質問を通じて、院長の考え方や視点に別の角度から光を当ててくれる相手がいることで、ボトルネックの解消と次のステージへの移行がスムーズになります。
ある院長は「当院の最大の強みは、マイクロスコープを使った丁寧な治療」であるというポリシーを持っていましたが、いつも赤字スレスレの経営でジレンマを感じていました。
実際に、院長への質問で明らかになったのは、勤務医の生産性(売上)が低いことで、その理由が、保険の治療でもアポイントを1時間とって、マイクロスコープを使って、時間をかけた治療をしていることであることが分かりました。 院長もうすうす感じていたものの、第三者とのディスカッションを通じ、自分の経営を苦しめていたのは、自分のポリシーとしてこだわっていたことだと改めて気づき、必要な手を打つことで収支の改善を実現しました。
トップに進言・諫言できる部下を持つことは難しい
経営者も一人の人間。時には、感情的になることもあれば、好き嫌いもあります。
また「公」の立場の大切さも重々知っていても、「私」を優先させたいという誘惑に駆られることもあります。
従業員として雇用されているスタッフでは、組織の絶対権力者であるトップには、気づいていても意見や諫言はできないものです。
そんな時に、親身に話を聞いてくれた上で、正しい選択を勧めてくれる存在がいることは、茨の道で、毎日厳しい経営判断を行っている孤独な経営者にとっては救いともなり、経営の危機を事前に回避する手立てにもなります。
あるスタッフの言動に問題を感じていた院長が、改善のために、そのスタッフに別の場所にある分院への勤務変更を言い渡したことがきっかけで、適応障害となり休職となりました。
休職が既定の期間を過ぎたため、そのまま退職の話をしたところ、そのスタッフは院長への仕返しを考えているということが、他のスタッフからの情報として入ってきました。
院長は感情的になっており、そのまま退職の処理を強行しようとしましたが、私たちが現場の他のスタッフにリサーチしたところ、意外にも他のスタッフからの評判は悪くなかったため、退職の処理は慎重に行うよう進言しました。 院長もこの進言を受け入れてくれたことで、時期や条件など交渉し、円満に退職していただくことができ、それ以上の混乱を未然に防ぐことができたという事例があります。
以上、3つの観点から経営者である院長にとって「第三者の立場にいる相談相手」がなぜ必要とされるのかという理由について紹介してきました。
経営者の友人、専門的なパートナーなど「第三者の立場にいる相談相手」を意識して活用してみてはいかがでしょうか?
弊社のMr.歯科事務長サービスを活用されている院長の多くが、経営レベルでの意見交換ができる相談相手を持つことの有効性をあげています。 身近に相談相手がいない、他の医院の状況も熟知している専門家を相談相手として持ちたいという院長先生は、ぜひお気軽にご相談ください。