歯科医院の「マネジメントに失敗する院長」の2つの特徴

このコラムでは歯科医院経営で多くの院長がお悩みの「マネジメント」のコツをご紹介していきます。

歯科医院経営が軌道に乗り始め、最初は5名にも満たなかったスタッフが増えはじめ、やがて10名を超えた頃から、これまでの運営方法ではスムーズに事が運ばない状況に戸惑いやストレスを感じるようになります。

この時に思い至らなければならないことは、それまでもっとも大きな成功要因であった、歯科医師としての臨床技術や学術的な知識とはまったく違う種類の「知識」「スキル」「考え方」、「智恵」が必要になっているということです。

今回は、個人としての力量が高い院長がマネジメントでつまずきやすい2つ特徴を紹介します。

目次

外部から見たら「成功している院長」なのに、、、

「蟻の一穴」という言葉があります。

ご存知のように、「堅固につくった堤防も、蟻が開けた小さな穴が原因となって崩れ去ることがある。わずかな油断や不注意がもとで大きな災いを招くことがある」という戒めの言葉です。

とある医療法人の組織で見かけた事例を見て、この戒めの大切さに、改めて思い至ったことがあります。

その組織のトップである院長は、新しい取り組みを、積極的に次々と取り入れていました。

「自分が死んでも永続的に地域に貢献する組織」という高邁な経営理念を掲げ、顧客満足プログラムの導入、経営コンサルタントによるチーム活性化プログラムの投入、新しい技術やマーケティングに関するセミナーには、毎週のように参加をし、組織外の人から見ると「成功しているすごい人」と誰もが思っていました。

しかし、外の評価とは裏腹に、組織内では、どんなにお金をかけて素晴らしいプログラムを導入していても、どれも軌道に乗りません。スタッフはいつも、新しい取組に対してトップの熱が冷めるのをじっとやり過ごすという事を繰り返していました。

トップの「信用」がマネジメントの土台

なぜそのようなことが起きたのでしょうか?
一年を通じて、家族も顧みず、休みなく働いてらっしゃる院長です。臨床や医院経営への投資も積極的に行い、腕も、設備も、ホームページも、スタッフ数も地域ではトップクラスの医院です。

実は院内ではこのようなことが日常茶飯事で起きていました。

「院長患者のアポが入っているのに、よく遅刻をする」
「院長自身が決めたことに対する期限を守らない」
「やっておく、考えておく、と言ったことをそのまま忘れる」

こうした、日常の小さなやりとりでスタッフとの信頼関係が少しずつ崩れてしまっていたのです。
その結果、院長の「良き意図」や「努力」がどれも中途で挫折してしまっていたのでした。

人間社会は信用の上になりたっています。

よく例えに挙げられる貨幣経済。
1万円札の原価は20円前後と言われています。実質的には20円の価値しかない紙であっても、政府の信用が裏付けとしてあるために1万円の価値として流通しています。

交通ルールも然り。
日本では誰もが「車は左車線を走行する」「青は進め、赤は止まれ」という「ルールを守るであろう」という信用があるからこそ、安心して車移動もできています。

また戦国時代のドラマでは、殿様の食事を家臣が毒見するシーンを度々目にすることがありましたが、いま外食に行って毒見をする人は、よほど人から恨まれるようなことをしていない限りいないでしょう。

銀行は返済してもらえるであろうという信用の範囲で資金の貸付を行います。タクシー運転手は、降車の際に代金を支払ってくれるだろうと信用しているからこそ、目的地まで車を走らせます。

富豪同士のやり取りでは、お互いが口約束であっても多額のお金の貸し借りが成り立つといわれています。この人物が約束したなら必ず返済するだろうという「信用」があるからです。「信用こそが財産である」ともいわれる所以です。

このように「信用」という目に見えない価値は、何から生まれてくるのでしょうか?

それは「約束を守ること」から生まれると言われています。

歯科医院のマネジメントに話を戻せば、「信用」はスタッフとの「小さな約束」を守ることから始まります。

号令一下、スタッフが整然と指示を実行する組織を支えるのは、「院長は約束を守る人である」というトップである院長への信用です。「信用」がマネジメントの土台になっているのです。

スタッフとの約束、スタッフからの信用を軽視していること。これが「マネジメントに失敗する院長」の1つめの特徴です。

マネジメントがうまく行かない、スタッフが思うように協力してくれない、と感じている方は、「約束を守る」という観点からご自身の言動を、そして「信用」という観点からスタッフとの関係性を振り返ってみることをお勧めします。

マネジメントの失敗グセを治療する「考え方」とは?

次に、やるべきこと、やりたいことはたくさんあるが、どれも思ったような結果がでない、という「マネジメントの失敗グセ」のついた院長の特徴について考えてみます。

「なかなかいい人材が採用できない!」
「スタッフがなかなか育たない!」
「チーフがチーフとしての仕事をしてくれない!」
「売上が伸びない!自費が増えない!」

などの人材や業績に関する歯科経営の課題は、ほとんどの院長(通常の企業も)に共通の悩みです。

このような歯科経営の課題や悩みに対処する時に、一歩一歩着実に前進していく院長と、失敗グセがついてその場からなかなか進まない院長とに分かれていきます。どこに違いがあるのでしょうか?

それはある「考え方」を持っているか?持っていないか?による違いです。
それは「代償の法則」を理解しているか否かという違いです。

「代償の法則」とは、自分が求めるものを手に入れるために、相応の「代価」を差し出す必要があるという考え方です。

もともと院長は能力が高い方が多いため、担当患者さんへの治療成果や説明、業者との交渉、自分ひとりでやれることには問題は感じないことでしょう。

しかし、ひと度「スタッフを使って成果を出す」というマネジメントのシーンでは、必要な「代償」を払わずに成果を求めることで、空回りをしているケースを見かけることがあります。
これが「マネジメントに失敗する院長」の2つめの特徴です。そしてこの失敗グセを治療するために「代償の法則」という考え方を、自身のマネジメント思想の根本に据えることです。

代償の法則 ~求める結果に応じた代価を払う~

例えば、このような観点から十分に必要な代償を払ったか?をチェックしてみたらいかがでしょうか。

① スタッフの育成に時間がかかる!

  • 必要な訓練の機会、支援体制や時間を与えていますか?
  • スタッフは勝手に育つもの、先輩スタッフが教えて当然と放置していませんか?
  • 基準や手順を教育プログラム化するとともに、教育担当者への教え方をテキスト化していますか?

② チームワークを高めたい、診療クオリティのバラつきを改善したい!

  • アポを切ってミーティングの時間を確保していますか?
  • マニュアル化やルール、方針の明文化に時間をかけていますか?
  • 資料も作らず短時間の口頭説明で済ませていませんか?

③ チーフが院長の方針を理解していない!

  • しっかりと定期的なコミュニケーションの時間を確保していますか?
  • いつも話しているでしょ?で済ませていませんか?
  • 院長が考えていること、学んできたことを密に情報共有していますか?

④ 優秀な事務長の採用をしたいがまともな人材の応募がない!

  • 優秀な人材を採用できる給与や仕事内容、雇用条件を提示していますか?
  • 仕事を行うべきスペース、必要なツール、相談先など用意してあげていますか?
  • 事務長の10年後、20年後先の人生設計まで考えてあげられますか?

⑤ 自費が増えない!

  • 設備や技術力向上への投資を継続的に行っていますか?
  • スタッフへのトークの指導やマニュアル作成に時間を割いていますか?
  • 定期的な症例検討会など勤務医のレベルアップのためにどれだけ時間をかけていますか?

求めるものを手に入れるために必要な代償を払うこと、言葉を変えれば、必要なアウトプットを得るための合理的なインプットを行うことが、勝つべくして勝つための要諦です。

ここで、失敗グセがなかなか修正できない院長の考え方の特徴のひとつが「自分だったらできるのに」という基準です。歯科医院の経営者として組織をマネジメントしていく立場になった時に、こう考えていただくこと、打ち手が変わってきます。それは「社員は自分の30%程度の能力しかない」と考えることです。

自分の能力の30%しかないスタッフが、○○できるようにするためには?という観点から、必要な施策を考え、実行していくことです。
そうすることで、スタッフのレベルに合ったコミュニケーション、手順、時間軸で合理的な施策を進めていくことができるようになるでしょう。そしてそれは、一見、遠回りで時間がかかるように感じるものですが、その際に仕組み化していくことで、あとは何度でもルーティーンを回していけるようになるのです(具体的な取組については、別途、他のコラムで紹介していきます)。

今回は、個人的な力量は高いのにマネジメントに失敗する院長の2つの特徴をもとに、マネジメント力を向上するための視点をご紹介しました。

そうはいっても「自分のマネジメントスタイルや日常の院長としての言動が、どう組織に影響しているか?はなかなか分からない」という声が多いのも実情です。

弊社のMr.歯科事務長サービスでは、スタッフの定期面談を通じて、組織の課題分析や解決のお手伝いをしています。また仕組みづくりやミーティング運営など、院長のマネジメントを効果的に改善していくための相談役となり、実務などの後方支援も行っています。お気軽にご相談ください。

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