歯科医院のマネジメントに関する「お悩みベスト3」に入るのが「スタッフマネジメント」です。
実際、当社で歯科医院運営サポートをご依頼いただくケースの半分以上は「スタッフマネジメント」に関わることです。
このコラムでは歯科経営でも多くの院長がお悩みの「スタッフマネジメント」のコツをご紹介していきます。
「ネガティブ反応」は人間の本能に根差している
「初診カウンセリング用に説明スライドを追加する」
「1時間アポの人には前日に電話連絡を始める」
「初診時の検査に位相差顕微鏡も追加する」
など、新しい取組み、医院の方向転換を行う際に「スタッフがまた反発するんだろうなぁ~・・・」と気が重くなる院長も多いのではないでしょうか?
基本的に従業員とは「変化に抵抗する」ものと言われています。
これは歯科に限らず、一般企業にも社会全般にも通じる反応です。
この反応の淵源は深く、もともと人間の「本能的に根差している」と指摘されています。
人間は、高度な知性、社会活動を有しているとはいえ、生存形式として動物的な一面も持っています。
この動物の本能の最たるものは「生存や安全を脅かすものから自分を守ること」、簡単に言えば「不快なことから自分を守る」というものです。
このケースで言うならば「新しい取組で未来がもっと良くなる方を取るより、現在の安定が壊れた場合の苦痛を避ける方を自然状態では選択する」という本能です。
このように人間にも原初的な動物的本能が宿っており、不快なこと、安定(肉体的・精神的)を脅かすこと、危険を感じる事、自分が傷つくと思われることに対しては、自動的に反発するという反応を知っておくこと。そして、そうした反応を、予め折り込んでスタッフマネジメントに対処していくことが効果的です。
ネガティブ反応には「理にかなった説得」を心掛ける
ネガティブ反応は本能的なものであると指摘しましたが、それではどのように対処していくべきでしょうか?
少し理屈っぽくなりますが、原理としては、人間の持つ「本能」を超えるために与えられている「知性」「理性」「感性」「意志」「悟性」に説得のアプローチをしていくことです。
- 「知性」
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他の医院や一般企業の「事例」を知識・情報として伝える。
- 「理性」
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取組みの結果どうなっていくのか、患者さんへのメリット、スタッフ自身へのメリット、医院の存続や安定のためのメリットなど、「原因と結果のつながり」を分かりやすく伝える。
- 「感性」
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患者さんに喜んでもらえること、スタッフ自身が新しい経験を通じて成長できた時の喜びなどを「イメージ」させる。
- 「意志」
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社会的な正義や「大義名分」を立てて伝える。(健康寿命を延ばす、医療費を削減することにつながる、出産後も安心して復帰できる職場にするために財務体質強化が必要だなど)
- 「悟性」
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昔から良いとされていた道徳的な考え方で「良心」に訴える。(困っている人を助ける。お天道様が見ている。ウサギと亀。アリとキリギリスの教訓などなど普遍的に良いとされている価値に訴える)
少し理屈っぽくなりましたが、簡単に言えば「きちんと準備して説得を行うこと」です。
(以下のコラムも参考にお読みください)
人間通が教える「スタッフの説得術」とは?
前項では、歯科医院のマネジメントでありがちなスタッフのネガティブ反応を「納得」に変えるためのアプローチを合理的な観点から紹介しました。
次に、私がさまざまに読んできた人間の心理、感情をよく知っている経営者の書籍で紹介されていた説得術のうち、歯科医院でのスタッフマネジメントにも有効に使える説得術を二つご紹介します。
一つ目は、まずネガティブ反応、反発を「スタッフの儀式」だと思って、1時間、2時間としばらくじっくりと聞くこと。
その間、すべて真に受けていては体が持ちませんので、儀式が終わるまで真剣な顔つきをしつつ、ある程度は受け流すことです。
スタッフも本能的に反応して様々な意見や言い訳をしますが、それほど確たる理由や信念を持っているわけではないことと、反発することでエネルギーを発散し、やがて疲れてきます。
そして「言いたいことは出尽くしたな。」と感じたところで、しっかりと事前準備をした目的や理由、歩み寄り条件などを今一度しっかりと、論理的に説明して、最後は「責任は僕がとるから協力を頼む!」とお願いすることです。
手を抜かずに「根回し」 すること
二つ目に、より実践しやすい説得術として「根回し」することをお勧めします。
根回しとは事前に相談し、了承を取り付けることです。この時に留意したいのは「1対1」で話をすることです。
もちろん1対1であっても、前項と同様にネガティブ反応に対して話を聞ききり、協力を要請する形は同じです。
これは政治の世界でも言われているとのことですが、たいていの場合、1対1でお願いされたことについては最後は承諾するものです。 特に日本では合理的な判断より、人間関係が重視される文化であることがその背景にあるからと言えそうです。
また事前の根回しを受けることは、スタッフにとって「重要感」を感じる機会となります。きちんと私に話してくれた、私に意見を求めてくれた、というステップを踏むことで、ネガティブ反応を抑えるだけでなく、院長への信頼醸成にも徐々につながっていきます。
スタッフ数が多い医院で実践する場合には、一番キーになる(影響力のある)スタッフから順に行い、「できるだけ短期間」で必要な人数に行うことが良いでしょう。間延びすると、スタッフ同士が連携し、憶測と疑念による余計な横槍が入り、話をややこしくしてしまうことがあるためです。
主要メンバーの同意を取り付けたうえで、「すでにみなさんと相談させてもらいましたが、○○を○○します」とミーティングで決定事項として伝えることでトラブルや混乱が少なく進めることができるでしょう。
人事マネジメント担当者を配置する
こうした「根回し」や「説得」には手間暇がかかります。
特に組織が大きくなり、スタッフ数が10名を越してくると院長が一人で行い続けることがハードになってきます。
しかしここで手を抜いてしまうと、徐々に組織のカルチャーが望ましくないものに変質したり、一体感やチームワークが失われ、診療の生産性が落ちてくることになります。
組織の成長を願う院長は、上記の「根回し」や「日頃の関係性構築」を院長に代わって担当してくれるチーフやマネージャーなど、管理職を育てていくことを忘れないでください。
この時に大事なのは「人事対応ができる」ということです。詳しくは別のコラムに譲りますが、コミュニケーションスキルが高く、面談やスタッフ間の調整、基本的な組織人としてのあり方指導、ミーティングのファシリテーションができること。また、スタッフからの信頼を得られる人材であることが必須条件です。必ずしも歯科衛生士や歯科医師など国家資格は必要ではありません。
こうした人材がいない、育て方が分からないという場合には、弊社のようなアウトソーシングを活用されることが問題解決の方法としてリーズナブルでしょう。
やりたい事はあるが組織に落とし込みができない。管理職の育て方が分からないというお困りをお持ちの場合は、お気軽にご相談ください。
今月は新しい取り組みを行う際に必ず出てくるスタッフのネガティブ反応に対するコツをお届けしました。