スタッフの協力が得られる院長、得られない院長のちょっとした違いとは?

歯科医院の経営者でもある院長には、「臨床は好きだが、マネジメントは苦手」、「スタッフとの心の距離は果てしなく遠い」と半ばあきらめている方も数多くいらっしゃいます。
このコラムでは歯科経営でも多くの院長がお悩みの「スタッフマネジメント」のコツをご紹介していきます。

目次

スタッフマネジメントに苦手意識を持ってしまう院長が多い理由とは?

歯科医院におけるマネジメントといっても、自分の医院で、院長としての具体的な仕事として、何を指しているのか明確に把握できていないということはありませんか?

知識的には学べても、実際に実践が必要な立場、タイミングになるまでつかめないのが「マネジメントの仕事」の特徴と言えます。

その理由として考えられることは、マネジメントの対象としているのが、「人」という千差万別の個性を持った存在を相手にすることや、「成果」という様々な要素が立体的に絡み合って生じる価値を対象にしていることが挙げられます。

さらに「臨床」のための学術と技術を磨くことを中心に関心を持たざるを得ない職業であるため、そもそもマネジメントに対する思考や組織仕事の経験を積む機会がないことから、歯科医院におけるスタッフマネジメントへの苦手意識を持たれる方が多いと言えるのではないでしょうか。

マネジメント上達にはまず「歯科医院のマネジメントとは何か」の定義をブレイクダウンすべし

苦手意識があるとはいえ、歯科医院経営をスタートし一定の規模になると、自分自身のマネジメントの巧拙を意識せざるを得ない状況に直面することになります。

「採用ができない」「スタッフの定着が悪い」「指示したことが実行されない」「細かいことまで全部院長に確認しないと仕事が進まない」「自分達で考えて動いてくれない」など、自分自身の悩みや苛立ちとして、その巧拙と向き合わざるを得ない状況が現れてきます。

マネジメントに上達し、こうした状況を改善するためにおススメしたいことの一歩が「歯科医院のマネジメントとは何か」ということを、自分なりに定義することです。

例えば、経営学の父と呼ばれるドラッカーは「マネジメントとは、働く人の強みを活かし、成果を上げること」と指摘しています。

こうした本質論をもとにしつつ、以下の例ように、自分自身が現実のマネジメント現場で「使える」「発想の元となる」「判断の基準となる」定義までブレイクダウンすることをお勧めします。

規模やフェーズによって変わる歯科医院のマネジメント定義(ブレイクダウン事例)

例えば、私がある歯科医院(年商1億、スタッフ8名)の院長にアドバイスをしたマネジメント定義のブレイクダウン事例です。

「一人一人の強みを活かせる役割や仕事を中心に担当させること」
「全員で同じ方向性、目的、目標を共有するためのコミュニケーションを定期的にもつこと」
「一人一人の生産性が高まるためのルールや基準、連携方法を整理すること」

次は、年商4億の法人理事長に、アドバイスをしたブレイクダウン事例です。

「理念、目標、ルール、仕組み、組織の運営に移行していくこと」
「院長の仕事の一部を代行してくれる人材を、各セクションに養成し、分業体制をつくること」
「理念や基本的な考え方をテキスト化し、組織カルチャーを醸成していくこと」

冒頭で指摘した通り、マネジメントの対象は「人」であり、その時々に重要視する「成果」が変わってくるため、マネジメントの定義を具体的にブレイクダウンし、規模相応の打ち手を考えることが大切になります。
まずは自医院にとって現在のマネジメントの課題を明確にし、打ち手を考える拠り所とすべき定義のブレイクダウンを実行することをお勧めします。

さて、ここまでは歯科医院のマネジメントを効果的に行うための基礎的な観点から、定義のブレイクダウンについてお話してきました。

ここから先は「人」の部分で歯科医院のマネジメントで悩むことが多い院長に、誰にでもすぐに実践できる「スタッフマネジメントのコツ」を一つご紹介します。

スタッフマネジメントが上手くいくちょっとしたコツ「根回し」

「CC(シー・シー)」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。

これは、ある相手にメールを送信する際、関連(他に知っておいたほうが良いだろう)の方も送信先に参考・補助的に追加する「カーボンコピー」の略です。

この『「CC」に追加する』という発想は、日本の文化に根付いている「根回し」にも通じる発想と言えるでしょう。

さて、私達が医院のスタッフと面談や仕事の打合せをする時によく聞く言葉があります。
それは、「聞いていなかった」「知らなかった」という言葉です。

この、言葉が積み重なると何が起きるか?

「私には関係ない」
「院長が勝手にやっている」

という「他人事発想」につながっていくケースを数多く見てきました。

例えば、「ユニットや機器を増やす」「〇〇さんのシフトが変更になった」「新しいスタッフを採用する」など、
上記のようなことでも、ちょっとした気づかいで、事前に根回しをしておくだけで、「頼りにされている」「自分もこのクリニックの一員として尊重されている」と感じるものです。

「責任を取るのは院長だから、誰にも相談する必要はない!すべて自分が決める!」という考えは経営トップとして正しい考えです。

しかし、同時にスタッフがクリニック運営への参加意識、当事者意識を持って熱心に働いてくれるように仕向けていくことも、経営トップとして志向すべき取組みです。

「根回しも愛情のひとつ」根回しで別れた二人の分院長の成果

先日、とある医療法人の分院長会議で、二人の分院長にマネジメントの取り組み方をヒヤリングしました。

業績や収益力もよく、スタッフが一丸となって運営されている分院長からは、

  • 目標設定の時はスタッフの話をじっくり聞きながら、スタッフを目標設定に巻き込んでいる。
  • スタッフのプロジェクトMTG後に報告をさせて、丁寧にアドバイスをしている。
  • スタッフ間の人間関係にも配慮し、悩んでいる子がいたら飲みに連れていっている。

もう一方は、数字はそこそこ上がっているが、チームワークが今一つ良くない分院長のコメント。

  • ミーティングでは自分が話をし、目標もやり方も自分から伝えることが多い。
  • スタッフと接する時間が少ない、コミュニケーション取るための時間がつくれない。
  • プロジェクト活動にはほとんど関われていない、任せきりになっている。

クリニックの運営状況と、分院長のマネジメントの状況が浮き彫りにされた印象的なシーンでした。

さらに、マネジメントを上手に行っている分院長に、『自分自身の臨床と、スタッフマネジメントに使っている心的エネルギー量は、感覚的にどの程度の割合で使っていますか?』と質問してみたところ、

「60%はスタッフに対するマネジメントに注入している感覚だ」とのことでした。

これをお聞きして、歯科医院におけるスタッフマネジメントのベースにあるのは、知識やスキルだけではなく愛情であること。そしてマネジメント上のテクニックの一つでもある「根回しも愛情のひとつ」の形であると感じた次第です。

こうした「愛情」や「ちょっとした配慮」という心理的な働きが、スタッフのモチベーションや協力意識、チームワークに大きな影響を与えています。

明日から、何かを始める、変える時などには、「誰か事前に伝えておくべき人はいなかったかな?」と「CC発想」を取り入れてはいかがでしょうか?
きっと院内のコミュニケーションや運営がきっとスムーズになり、院長の仕事もしやすくなるでしょう。

今回のコラムでは、「マネジメントの定義を使えるようにブレイクダウンすること」そして、マネジメントの悩みの中心を占める「人」を活かすためのちょっとしたコツとして「根回し」についてご紹介しました。

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