このコラムでは歯科医院経営で多くの院長がお悩みの「マネジメント」のポイントをお伝えしています。
自らが経営する歯科医院を成長・拡大させていきたいというビジョンをお持ちの院長が持つべき、大切な指針とは何でしょうか?
それは「経営規模に応じた考え方・やり方」に脱皮していくことです。これは一般企業に対しても数多くの経営コンサルタントが指摘していることであり、組織運営に関わる者にとっては当然の指針です。
しかしながら、人間とは他人のことはよく見えても、自分自身のことになると客観的、合理的に判断できないという難しさがあり、組織規模は「中学生」になっているのに、考え方ややり方は「小学生」で、「中学生がランドセル背負っている」というギャップに気がついていないこともままあります。
また、実際には、気がついたとしてもその具体的な方法が分からない、具体化の方法が分かったとしても具現化ができないという点が、経営の難しさでもあります。
今回は、歯科医院の経営規模の拡大に合わせたマネジメントシステムを構築していく際に必要なポイントのうち、「組織コミュニケーション」の考え方について紹介します。
脱皮の時期を知らせる「組織の雑音」
「昔はスタッフがあうんの呼吸でサポートしてくれて、効率よく診療できたのにな~」と、一定の規模まで成長した医院の院長からよくお話を聞くことがあります。
働いてくれるスタッフは、誰もが「アシスタント」にもつければ「受付」も対応できる。
電話や患者応対もスムーズで、忙しい時にはフォローをしあい精鋭ぞろいで仕事ができた。
しかし成長して医院規模が大きくなると、小さかった頃と同じようなイメージでスタッフに期待をかけても、なかなか思うように動いてくれないと感じる。Z世代のスタッフが増えたから人材の質が変わってきているのだろうか?
そう感じている院長も多いのではないでしょうか?
この理由はスタッフが増えることにより、組織内で以下の変化が起きているのが最大の要因です。
- 取り扱う情報量の増加
- コミュニケーション接点の増加
さらには、衛生士業務の分化、カウンセリングや治療説明、治療メニューや設備など「業務の複雑化・高度化」も、それに拍車をかけています。
この時に適切な脱皮、つまり「考え方・やり方」を変えていかないと、
- 患者さんの満足度低下、クレーム
- スタッフの不満、定着率の悪化
などが「組織の雑音」として院長の耳に入ってくるようになります。
さらには、これを放置しておくと、生産性の悪化(売上減少、収支バランス悪化)という歯科医院経営にとってはもっとも避けるべき事態につながることになります。
「仕組み化」とは「分業」
このコラムでは「歯科医院のマネジメントシステムを創ろう」というタイトルを掲げていますが、マネジメントシステムとは「仕組み化」とも呼ばれ、この時に大事な視点の一つが「分業」です。
規模が大きくなることで、「一人が何でもできる」という効率化から、「役割毎に専門分化する」ことによる効率化へと考え方を脱皮させていくことが重要となります。
そしてこれは、経営規模拡大の原理でもあり、10人、20人、30人、50人とスタッフ数が増えるごとに、都度、縦方向と横方向それぞれに、分業のやり方を変えていくことが必要です。
10人規模の歯科医院であれば、まずは「受付」と「アシスタント」はそれぞれ専門職として分業していくことが効率的、安定的なマネジメントの基礎になってきます。
また歯科衛生士の仕事も、アシスタントからメンテナンス、受付まで縦横無尽に動いてくれる体制から、担当制のメンテナンスを中心に業務を行うような仕組み、分業体制へ移行していくことが多くの医院で実践されています。
また20人規模になった場合には、「カウンセリング」を専任で行うスタッフの配置や、「フロアマネージャー」として診療室全体のマネジメント(患者さん、スタッフ、時間、チェアを効率的に回す役割)を行うスタッフを配置するようになってきます。また事務的な役割を果たしてくれるスタッフを専任化するのも、この時期に考えていくことが必要になってきます。
さらに規模が多くなると、託児スタッフ、滅菌スタッフ、クリーンスタッフの活用から、コールセンターとして電話でのアポイントや問合せ対応だけの部署を設ける事例もあります。
上記のように、一人で何役もこなしていたスタッフ業務を専任化することで、一見、無駄が生じる面もあることはありますが、こうした「仕組み化・分業」をすることが、採用、教育、評価、定着、引継ぎなどの「人材フローマネジメント」にもつながっていくため、結果的に、マネジメント全体を最適化していくことになっていくのです。
規模に応じた「組織コミュニケーション」を
次に、「スタッフ数の増加」や「専門分化」をしていく時に必要なのが「方針の浸透」、スタッフ間やセクション間の「情報共有」など「組織コミュニケーション」の観点です。
そしてそのための「ミーティング」や「カンファレンス」などの時間確保です。
田畑には畦道(あぜみち)があります。
畦道は、境界線を明確にするだけでなく、田畑に必要な水を管理する機能や作業用通路としての役割があります。雑草や害虫の状況を把握したり、作業の移動や器具の運搬を行うために必要とされています。
田畑のすべてに農作物を植えた方が、無駄なく収穫が出来て効率が良いだろうと思うかもしれませんが、畦道や用水路があることで、収穫に必要な水を田畑に送り込むことや、農作業を効率的に行う事ができるのです。
上記は比喩ではありますが、組織内のコミュニケーションもこの「畦道」と同じです。
- スタッフの動きに無駄やムラがある
- 手順ややり方が人によってバラバラである
- 伝達忘れ、記載漏れが頻発する
- 物を探す時間が多い、勝手に置き場所が変わっている
- 決まったことが実施されない、いつの間にかうやむやになっている
- 細かいことまで何でも院長に聞きにくる
スタッフが10人~20人規模になり、上記のようなことが気になり始めていないでしょうか?
これは組織規模に応じたコミュニケーション方法や必要なコミュニケーション量が整っていないことから起きてくる事象です。
歯科医院経営の規模に応じた「組織コミュニケーション」は、付随的な物でなく、必要な仕事、必要な時間であると考えてしっかりと設計、運用していくことが重要です。
私たちのサポート経験からも、このミーティングの重要度を理解していないために物事がスムーズに進まないケースを見受けることが多くあります。
なお、ミーティング運営の時間を「アポを切るのはもったいない」と感じる院長も多いようですが、一定規模になったら「ミーティング」や「カンファレンス」を休憩時間やサービス残業で行うのではなく、正規の勤務時間で行うべきです。また必要な時間をしっかりと確保すべきです。
それが、参加するスタッフにとって「重要な時間である」「重要な内容である」ということをメッセージとして伝えていることにもなります。
いま自医院は、規模に応じたマネジメントシステムになっているか?
分業やミーティングの時間確保など見直してみてはいかがでしょうか?
以上、歯科医院のマネジメントシステムを構築するという観点から、本コラムでは「組織コミュニケーション」についての論点を紹介してきました。
ある面から見た場合には一見「無駄」と思える部分でも、実は組織の規模が大きくなっていった場合には、逆になることがあります。また、多少の無駄に見える余白が、次の成長の時間投資やスタッフ退職のリスク分散にもつながることもあります。
歯科医院経営者として、常に、「考え方・やり方」をバージョンアップしていくことが、歯科医院の成長を実現していくための取組そのものです。そのためには、「本からの学び」、「他医院の研究」、「一般企業の事例研究」など学習の習慣が必須です。
さらにスピード感を持って歯科医院経営の成長・拡大を目指す院長には、弊社のような「経営やマネジメントのパートナー」を活用することも有効です。
経営についての知識や見識、マネジメントスキル、他医院の事例やノウハウを豊富に持っているパートナーを持つことは、経営判断の精度を上げ、速度を上げ、実行の速度も上がります。
歯科医院の経営やマネジメントの専門家を相談相手として持ちたいという院長先生は、ぜひお気軽にご相談ください。
この記事の解説者
MOCAL株式会社 代表取締役
今野 賢二 Kenji Konno
歯科業界歴25年。歯科医院向けソフト開発・販売のベンチャー企業で、マーケティング・営業マネージャーとして、販売の仕組みづくりの中心的役割を担い、トップブランド構築に貢献。
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