このコラムでは「歯科医院経営」とは何か?について、学問的定義にとらわれず、実際に400医院以上の歯科医院運営に携わってきた観点から「事業成長の10のポイント」として抽出しました。
歯科医院経営の打ち手、すなわち「何をすれば歯科経営が伸びるのか?」、特に年商1億~2億を目指す段階で押さえるべきポイントをご紹介していきます。
歯科医院経営の勘所は「採算学」と「人間学」
歯科医院の経営のみならず、経営に成功するための最も重要な要素は「採算学」と「人間学」に集約されると指摘されています。
「採算学」は、マーケティング、経営戦略、事業モデル、資金計画など、特にお金の流れ(売上、コスト、利益)を考える際に、直接的に結びつきが強い領域への打ち手とその原則のことを指しています。
「人間学」はおもに、サービス提供体制の主体である「人・組織」への打ち手とその原則を指していると考えるとよいでしょう。
経営における人間学は「マネジメント」と同じであると考えて差し支えありませんが、あえて「人間学」という表現を使う意義は、「マネジメント」には、手法や技術、理論というニュアンスで捉える向きがありますが、実際には「人間の生の感情」や「本能的な欲求」への配慮が、成果に大きく作用することからこの言葉を紹介しました。
「発展とは資力ではなく人間力の問題である。」とドラッカーが指摘していますが、歯科医院経営においても、成長も、躓きも、その多くは「人」に端を発しています。
歯科医院経営とは「採算学」と「人間学」にあり。
まずはこうした認識を常に忘れないことが、さまざまな局面で正しく手を打ち、歯科医院経営に成功するための発想の足場になります。
歯科医院経営~事業成長のための10のポイント~
次に「採算学」と「人間学」を踏まえ、歯科医院経営で特に「事業成長の観点」から押さえるべき10のポイントを紹介します。
信用の創出
「信用」こそ、歯科医院経営の成功を支える最も大切な要因です。
大切な観点なので、あえて一つ目にあげました。
ビジネスのみならず、社会の成り立ちのすべてが「信用」でつながれています。
例えば「紙幣」をつかって物を購入できるのも、それがどのお店でも使えて、一定の価値を担保してくれるという信用がベースにあるからです。
また、銀行融資を受けられる額にも「この金額であれば返済してくれるだろう」という信用限度というものがあります。
もっと身近な例で言えば、患者さんに高額な治療を提供する場合でも「きちんと支払いをしてくれるであろう」という信用があるから、後払いで治療を提供します。またスタッフは「この院長ならきちんと給与を支払ってくれるだろう」と思っているから労働に従事してくれています。
このように目には見えませんが、すべて「信用」が土台になっています。
では、医療機関である歯科医院で押さえるべき「信用」とはどのような内容でしょうか。
それは「安全で、良心的、誠実な医療サービスを提供してくれる」ことに対する信用です。
「信用」こそ、歯科医院経営のすべての領域に影響を及ぼす、大きな資源です。
患者さんからの信用、スタッフからの信用、テナントオーナー様からの信用、近隣住人からの信用、他医療機関からの信用、行政機関からの信用、銀行からの信用、出入り業者さんからの信用、税理士や社労士さんからの信用、家族からの信用など。信用の大きさに応じて、事業が成長すると言っても過言ではありません。 そして、日々の診療、言動、判断の一つ一つが、毎日毎日、信用を増やすか、減らすかにつながっています。
経営がうまくいかない、実績が伸び悩む、スタッフの採用や定着がうまくいかない時には、信用という観点から自医院のボトルネックを振り返ってみることで、解決のヒントを掴むことができるでしょう。
環境整備・設備投資
医療機関である歯科医院にとって基本的な環境整備が「安全と清潔感」です。
感染に対する意識が高まったコロナ後の社会では、清潔で安全な環境を整えることは基本中の基本です。
決して豪華であったり、ハイセンスである必要はありません。安全と清潔に配慮して、よく管理されていれば、患者さんの来院動機に大きな違いになることはありません。
- 張り紙が日焼けしていたり、剥がれたりしている。
- 出窓にホコリがたまっていたり、植木鉢に虫の死骸がある。
- ソファーの下に髪の毛やホコリが積もっている。
- スリッパが古くなり、不衛生な印象を与えている。
- 傘立てに長年放置されている傘が置いてある。
- トイレの便座の裏まで清掃が行き届いていない。
など、このような細かい管理状況の一つひとつが、患者さんへのメッセージとして届いています。
まずは基本動作である「安全と清潔な環境管理」の凡事徹底も経営の土台の一つです。
そして、もう一つの観点は「ハード面」です。
戦略に応じた「機材」「設備」「内装」など整えるという観点が重要です。
簡単な例としては、顧客教育を通じて「予防啓蒙」をしたいという戦略があれば「カウンセリングルーム」の設置や衛生士用ユニットを多く配置するなどハード的な対策が成果に大きく影響を与えます。 ハードがボトルネックになっていることがないか?こうした観点での検討も必要です。
集患・マーケティング
「顧客数」こそ経営成功のもっとも重要な指標です。
この顧客を自医院に来院してもらうための施策が集患・マーケティングです。
ターゲットである見込み顧客に「医院を発見してもらい」、「この医院は良さそうだと魅力を感じてもらい」、「予約をとって来院してもらう」という一連の仕掛けです。
情報技術が進化した現代では、マーケティングの成否により、どんどん二極化が進む傾向にあります。
具体的には、ホームページの「コンテンツ」と「検索対策」の2つの基本対策がもっとも重要なポイントです。 ホームページのコンテンツで特に留意すべきポイントは以下の3つです。院長のパーソナリティ、親しみや信頼のある人柄
① 院長のパーソナリティ、親しみや信頼のある人柄
ネットが普及した社会であっても患者が医院を選ぶ際の基準は変わりません。
自分の口腔内を安心して任せられる人であるか?という観点から「院長」への信頼性を持っていただくことが重要です。
その為には、臨床技術の高さが分かる実績や設備に関するものに加え、院長自身がどのようなポリシーや価値観を持っているかということが伝わる、温度感のあるコンテンツを入れることが効果的です。 年商1億までの段階では、「当院が提供する商品・サービス」は、かなりの割合で院長自身と捉えられていることを前提にコンテンツを充実させてください。
② 競合を意識した「差別化」
患者さんは必ず、複数の医院との比較をしてから受診する歯科医院を選んでいます。
「なぜ当院を選んだほうがよいのか?」を他医院との比較軸で考えコンテンツとして表現をしましょう。
差別化につながる観点はさまざまにあります。
これまでの経歴、資格、参加した研修やセミナー、実績、ポリシー、価値観、志や目標、診療方針、こだわり、設備、技術、なぜ歯科医師を目指したのか、勤務医時代にどんな経験をして、その経験をどう開業に活かそうとしたのかなどのエピソード、趣味や休日の過ごし方、家族との関係性などのパーソナルな一面など。
これを考える時のコツは「他医院のホームページ」を30~50サイト真剣に目を通すことです。
これを実践することで、自分自身で伝えたいことが明確になってきます。また、良い意味で参考にできる視 点がたくさん得られます。ぜひ実践されることをおススメします。
③ 来院時にギャップを生まないこと
ホームページを閲覧して来院された方の「期待」と、実際に来院した時の印象や対応に「ギャップ」が出ると逆効果になります。その意味で、②で書く内容は誠実であることが必要です。
アポイント管理
歯科医院経営の実績に直結する重要ポイントが「アポイント管理」です。
アポイントの本質は、「人、設備、時間」という経営資源をどのように活かし、患者さんのニーズを満たすか。という運用計画・作業工程表と言えます。
この1日のアポ帳に、どのようにアポイントを入れるのか?で1日の診療実績が決まり、365日分のアポ帳が1年の診療実績を決めてしまいます。
- ドクターの予約を30分1枠にするのか?20分1枠にするのか?
- 担当医ごとのアポイントにするか、チェアごとのアポイントにするか?
- キャンセルがあった場合、どのように手を打つのか?
- 矯正相談の枠はどの時間帯にいくつ確保しておくべきか?
こうした「基本ルール」や「アポイント管理の巧拙」が売上に大きく影響します。
(「Mr.歯科事務長 歯科経営チャンネル」でもコツをご紹介しています)
チェア数やスタッフの人数から「あるべきアポイント」のモデルをしっかりと整理し、受付を中心としたスタッフに落とし込みをすることが重要です。
(「スタッフ説得のコツ」コラムもご覧ください)
説明・情報提供
内閣府が行った「医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査」では、かかりつけ医に求める要件で「病状・治療内容など分かりやすく説明してくれる医師」が1位(60.3%)に選ばれています。
病状や健康に関する「不安」。自分で「納得して治療方法を選びたいという欲求」。どちらも本能に根差した要件のため、これに応えなければ顧客の支持は得られません。
画像やツールを使った「分かりやすく親切な説明」や治療の選択肢、治療後に痛みや腫れがでるなどの見通しなど、「患者さんが知りたいことを先回りして情報提供」することが、安心と信頼につながります。
当たり前に行っている説明は果たして顧客の欲求に答えていますか?
「やっているつもり」が実に多く見受けられます。
もし真剣に業績を伸ばそうと思うのであれば、しっかりと院長自身やスタッフが行っている「説明」「情報提供」を体系立ってレビューをすることをおススメします。
自分自身が行っていることは、客観的にレビューできないのが人間の常です。音声や動画を撮影したものを自身でチェックしてみる、スタッフから厳しめの評価をしてもらう、接遇指導など外部の専門家に相談するなど、具体的に実践した場合の効果は大きいでしょう。
(Mr.歯科事務長「接遇マナー研修プラン」をご提供しています)
顧客教育・価値の説得
診療単価や患者減少、採用や労務コスト、材料などのコスト増は、今後もトレンドとして続くことが予想されており、真っ当な歯科医院経営を維持していくためには、どうしても「自費診療」や「予防来院(健康ニーズに応えたリピーターづくり)」への取り組みによる「収益力の向上(生産性の高い事業モデル)」は無視できません。
その為には、これまで患者さんが「普通の治療」と考えていた保険治療以上の価値を提案、プレゼンすることが必要なります。
「知らないものは手に入れたい」と思いません。
「自費診療」も「予防来院」も顧客に価値が伝わらなければ成果につながりません。
医療者が考える最善の治療と患者さんの理解にはギャップがあります。また、口腔ケアを継続するには生活習慣や行動習慣の変容を促すことが必要です。
「情報提供」から一歩踏み込んで、「顧客教育」という観点から、そしてさらに踏み込んで「価値の説得」の観点から自医院の取組みを見直してみることをお勧めします。
どのタイミングで、どんな内容を、どのツールを使って、誰が、どのようなレベルでお伝えするのか?
この「価値提供」のフローや仕組みを整理することが、まずは1億以上の規模にしていくためには重要です。
なぜなら1億を超える規模になるには、院長以外のスタッフに、院長の仕事の一部を代行してもらわなければ、全てに手が回らなくなるからです。
この段階では、それほど精緻な仕組みやフローでなくても十分ですが、少なくとも「保険治療」と「自費治療」の違い。「予防的な観点からの定期来院の大切さ」の2つを、基本的にはすべての患者さんに、一定の情報品質・情報量」でもれなくお伝えする仕組みを整えましょう。
基本的な仕組みが整い、スタッフが習慣的に実施できるようになれば、「定期来院される顧客」が毎月毎月、増え続ける流れができます。また自費についても、院長中心の診療体制(勤務は1~2名程度)であれば、自費率は30%以上で維持できるようになるでしょう。
スタッフ・提供体制
どんなに良き戦略や意図をもっていても、ホームページでうたっていても、実際の診療現場で実践されていなければ事業は成長しません。歯科医院経営も進化しません。
院長の方針は「痛みで困っている急患さんは断らない」のに、実際には受付スタッフが電話で断っている。このように良き意図や戦略を実現するためには、医療サービスを提供するスタッフへの教育、仕事の訓練、理念の共有が必要です。
スタッフがこれを習慣的に行ってくれるようになるポイントは、「自分事」として理解できた時です。
なぜこの取組みが必要なのか。どのように行って欲しいのか。何度でも腑に落ちるまで伝えましょう。
そして、この時大事なことは、「できない理由」「忘れてしまう理由」など、スタッフ側の言い分をすべてしっかりと聞き、きちんと答えることです。
言い分に一理ある面があれば、それを改善してあげましょう。
言い分が単なるワガママであれば、きちんと説得をしましょう。
院長が真剣であり、やることが患者さんや自分のためになると頭でわかり、3ヵ月程度PDCAサイクルできちんとフォローしてあげれば、ある程度のことは実施できるようになるでしょう。
そしてもう一つ、うまく行かない場合のチェックポイントです。
どんなにメンテ患者さんを増やそうとスタッフに指示をしてもメンテ患者さんが増えない、という場合、実際には衛生士の人数が不足していることが理由であることもあります。
他の医院では、衛生士が1日8人のメンテを診ているから、当院でもできるはずだ。と考えて指示はしているが、実は、他の医院では衛生士業務のみをさせているが、自院では、衛生士業務以外のさまざまな仕事も衛生士に担当させていて、実際にはマンパワー不足が足かせになっている。
このような「提供体制」が事業成長のボトルネックになっていることもあります。
診療フロー・仕組み化・標準化
歯科医師も歯科衛生士も技術職であるため、工場の規格品と違い、一人一人の仕事には違いが出てきます。
手順、品質、時間など、一定の品質を確保するためのフローや仕組み化、標準化をしていくことが、事業拡大の上で必須の取り組みになります。
特に、スタッフが増えてくるに従って、個々のやり方が違う場合には、いろいろな不都合や生産性を落とす不調和が生じてきます。
器具の扱いや管理方法、置き場から始まり、検査方法やカルテ記載ルール、アポイントの取り方、他セクションへの情報共有ルール、手技の品質、説明内容や品質まで、フローを決め、仕組み化・標準化をすることが、全体の生産性向上につながります。
こうした仕組み化や標準化のコツとしては「繰り返し行う業務(何度も確認されること)」から、一つ一つマニュアルや手順書にまとめていくことです。
例えば、新人アシスタントの教育など、毎回、必ず教えなければいけないことなど「今回の新人を教えながら、次回以降のためにマニュアルにまとめよう」というように、小さなことから始めていくことです。
そして、2回目以降は、次の新人に教えながらさらにブラッシュアップしていくなど、仕事の流れの中で内容がブラッシュアップされていくように、「仕組み化発想」を院内に落とし込むことが大事です。
さらには、「チーフ」や「リーダー」の役割の一つとして、マニュアルの更新管理という仕事を任命するなど「担当者・管理者」を明確にすることと、毎年○月に見直し作業を行うなどスケジュール化で、せっかくの仕組みや基準、マニュアルが作りっぱなしにならずに活かされるようになってきます。
IT、DXツールによる効率化
患者数、スタッフ数が増えると業務が煩雑になり生産性が落ちてきます(人間が多くなると、関係性の数が増えて、コア業務以外の時間がどんどん取られるようになってくる)。
スタッフ数も10名、20名になったら、IT、DXツールの活用による効果が大きくなります。
インカム、予約システム、画像管理システム、サブカルテの電子化、音声入力システム、自動精算機、自動音声電話など、業務効率化のためのツールは進化しています。
時間短縮(探す、伝える、調べる)、自動化、無人化という観点から一度医院の業務フローを見直してみましょう。
(「Mr.歯科事務長 歯科経営チャンネル」でも「インカムの活用のコツ」などツール活用についての情報をお届けしています)
組織づくり・マネジメントサイクル
スタッフ数が20人を超えてきた場合には、院長が個々の状況を把握して、リアルタイムに指示出しをすることが難しくなり、機動的な取組み、意思の疎通、業務品質の維持に困難を感じるようになります。
各セクションに中間管理職を配置し、定例のミーティングや会議などを設けて、意思の疎通、問題点の把握、改善策の落とし込みなど、組織とマネジメントサイクルをつくって進めていくことが必要となります。
(「歯科医院のマネジメントとは?~成長する歯科医院の人材戦略~」コラムもご覧ください)
医業収入5千万円までの歯科医院経営の打ち手
次に、歯科医院経営の事業成長10のポイントを踏まえて、医業収入5千万円までの重点対策を紹介します。
基本の6つを徹底する
この規模までは、10のポイントのうち特に以下の基本をしっかり実践することで容易にクリアできるでしょう。
- ① 清潔な院内環境
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医院が少々古くても整理整頓、清掃が行き届いていること。
- ② 誠実な治療
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稲盛和夫氏の指摘する「天に見られても恥ずかしくない」診療であること。
- ③ 丁寧で親切な応対と説明
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院長の治療説明、スタッフの親切な応対を実践する。
- ④ マーケティング
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医院の看板、ファサード、ホームページの品質、基本的なSEO対策。
- ⑤ アポイント
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院長は衛生士に業務指示しながら1日30人程度のアポイントをまわす(入れる)。
- ⑥ 定期的な検診の案内
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半年後、1年後の検診に来院いただけるよう案内の仕組み化。
上位の基本が一定レベルで実践されていれば、新患来院、ご家族や紹介患者さんの来院、リコールなど自然自然に来院数が増え歯科医院経営が軌道に乗り始めます。
1日25~30名来院、月の売上400~450万円(レセプト250~300枚、自費100~150万円)を目安に診療目標を設定すれば5千万をクリアしていきます。
スタッフに対しては、小さな自医院で働いてくれることに対する感謝を持ち、よくコミュニケーションをとって信頼関係を築くこと。大きな医療法人や企業のような福利厚生がない分、心持ち、近隣医院より多めのお給料や賞与を支払ったり、ちょっとした心遣い(プレゼントやお土産、いただきもののおすそ分け、食事会)など、家族の延長で大切にしてあげることで、こころよく貢献してくれる関係を維持しましょう。
医業収入1億円までの歯科医院経営の打ち手
次に、歯科医院経営の事業成長10のポイントを踏まえて、一般歯科の場合の医業収入1億円までの重点対策を紹介します。
医業収入1億の規模にするための勘所は、以下の4つです。
人や設備への先行投資
5千万~1億へ向かって、最初に戸惑うのが、チェアの増設、衛生士の増員などの「先行投資」です。
5千万まででようやく収支がバランスして、借入金返済への安心感が出てくる段階のため、新たな投資による収支バランス悪化は、経営者の本能としても躊躇してしまうものです。
しかし「先行投資」をしなければ、実に成長スピードはゆっくりしたものとなり、10年経っても20年経っても1億突破できないというケースはざらにあります。
自らバランスを崩し、次の発展を企図する姿勢がなければ、事業の発展スピードはあがりません。
ただし会計士などに相談し、キャッシュフローの管理は行いましょう。
特に開業から日が経っていない場合に、現時点で手元に現金があるからという理由で設備や人材投資を行ってしまい、税金や賞与など大きな資金が必要なタイミングで資金がショートしないように留意しましょう。
開業から1~2年の場合、新たな借り入れができないことがあるので、この点は会計士や我々のような経営サポーターと連携して進めることをおススメします。
定期来院の仕組みづくり
医療的にはメンテナンス・口腔ケアの定期来院の方、ビジネス的に言えば「リピーター」づくりです。
さまざま手法、やり方については、各種のメディア、セミナーで紹介されているので詳細は割愛しますが、一番の核は「顧客教育(価値の説得)」です。
「歯が悪くなったらではなく、歯が悪くならないように歯科医院に定期的に通院する」という理由、モチベーション、行動習慣をつくっていただくためのコミュニケーションを仕組み化することです。
いろいろな手法が紹介されていますが、これが定着しない医院の特徴に以下のものがあげられます。
- スタッフに大切さが腑に落ちていない、院長が説得しきれていない
- 仕組み化するための「時間」や「支援」を院長が与えていない
- 顧客教育を担当するTCやカウンセラーを「専任化」していない
- 統率が取れていない(TCはメンテの説明をしたいが、勤務医が早く治療のチェアに通せと指示を出す)
チーム医療体制
この段階ではスタッフがパートも含めて10名程度になっています。患者数も増え、仕事も多く煩雑になります。そのため、一人何役もこなしていた役割を、徐々に専任化したり、分業化して、効果と効率を上げる必要がでてきます。
例えば以下のような分業・役割分担です。
- 衛生士は、専属ユニットでメンテナンスを中心に従事する、アシストは減らす
- 院長にはできるだけ単価の高い自費治療を診てもらい、勤務医と分業する
- TCの専任化、すくなくてもカウンセリング(顧客教育)を主たる業務とする
- 受付は、受付業務を中心にする、アシストは行わない
そして、このような分業を効果的に実現していくためには、以下のような取り組みが必要となります。
- 理念や目標、方針などの言語化・共有・説得
- 手順やフロー、ツール類の整理・標準化
- 定期的なミーティング等による意思疎通
- PDCAサイクルによる落とし込み
それぞれが役割と基本手順を理解して実践するとともに、チームとして連携して診療を回す体制を育てることが必要です。
右腕(チーフ)を育てる
組織が大きくなり院長対全スタッフというコミュニケーションでは、うまく物事が進みにくくなってきます。
院長の剛腕型(一人で高い売上をつくる)による1億体制ではなく、衛生士が複数メンテナンスユニットを回すタイプの1億体制を安定して稼働させていくためには、最初の管理職である「チーフ」を右腕として育てることにも取り組みましょう。
チーフには、以下のような役割を果たしてもらうようにします。
- 院長の声や方針を曲げずに伝えてくれる、舌足らずな部分を補ってくれる
- 現場の状況や声を院長にあげてくれる
- 診療の方針や基本手順を体現してくれる
- 院長や医院ビジョンへの信頼と尊敬を体現してくれる
- 後輩やメンバーの相談役、まとめ役
※「チーフを育てる」はコチラのコラムもご覧ください。
医業収入1億の標準的な規模感は次の通りです。
- 1日来院50~60人、レセプト500~600枚/月、自費250~400万円/月
- ドクター院長+非常勤1~2名、衛生士3~4名、受付・助手3~4名
まとめ
歯科医院にも経営の巧拙により「二極化」が進み、1億以上の医業収入がない医院は、売上減少傾向が続いています。患者さんにも安定した医療環境を提供し、スタッフにも長く働ける職場環境を提供するためには、ある程度の規模感の歯科クリニックに育てる必要があります。
歯科医院経営~事業成長の10のポイント~を参考に、まずは医業収入1億の歯科医院経営を目指してみてはいかがでしょうか。皆様の歯科医院経営にお役立ていただければ幸いです。
この記事の解説者
MOCAL株式会社 代表取締役
今野 賢二 Kenji Konno
歯科業界歴25年。歯科医院向けソフト開発・販売のベンチャー企業で、マーケティング・営業マネージャーとして、販売の仕組みづくりの中心的役割を担い、トップブランド構築に貢献。
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