歯科医院で良い人材を採用し、良いチームをつくる秘訣とは?~「理念で変わる歯科医院経営」

歯科医院経営で、現在、特に大きな課題となっているのが「人材採用」と「人材育成」です。

スタッフが指示を聞いてくれない、医院のカルチャーに合わず問題ばかり起こす、「医院カルチャーに合う人を採用したい」というご相談を受けることが多くなりました。

実際、同じような問題をお持ちの歯科医院の院長先生も多いのではないでしょうか?

この背景には、インバウンド需要でさらに拍車のかかった「人手不足」と、激しい市場競争により「スタッフの生産性向上へ期待」を余儀なくされるという「経営環境の変化」があげられます。

このコラムでは「良い人材を採用」し「良いチームを形成する」ために有効な「理念やビジョン」を医院運営に取り入れるコツについて紹介します。

目次

歯科医院運営の成果は「理念採用」にあり

理念採用

良い人材を採用するために“理念採用”に力を入れている医院が増えてきました。

「理念採用」とは、求職者に対して医院が大切にしている価値観や想い、診療方針などをしっかりと理解し、納得・共感をしたうえで一緒に働きたいと思ってもらえる方だけを採用しようという取り組みです。

これまでの面接では、職務経歴書や長所・短所など、応募者の情報を一方的に聞くスタイルが主流でしたが、このような面接方法では、求職者が「この医院はどのようなことを大事にして医院経営をしているのか」、「患者様に対してどのような価値提供を大切にしているのか」など知る機会が少なく、結果として「ミスマッチ」を起こすシーンをしばしば目にしました。

理念採用の取組では、院長自らが医院理念を語り、診療方針や行動指針、組織として大切にする価値観をしっかりと共有し、さらには見学や体験入社を通じ、「価値観に共感してくれる人材」であるかを見極めることを主眼としています。

こうした理念採用に取組むことで医院理念やカルチャーに共感できるスタッフを採用していくこと。スタッフ一人の採用へのこだわりが、小さなチームを運営する歯科医院では、大きな成果の違いにつながっていきます

歯科医院の成長規模に応じ理念を成長させる

歯科医院の成長規模

しかし、医療法人化し、組織規模が大きくなってきた段階では、もう一つの視点が大切になってきます。それは、「多様な人材でチームを作ること」。そのために「理念を成長させること」という発想です。

ライフネット生命の創業者である出口氏は「組織づくりの要諦は多様性の確保にあります。『いかに異質な人間を集められるか』にかかっている」と述べてられています。

多様性のある人材を活用することによって「提供するサービスが豊かになる」「多様性に配慮することから業務プロセスの合理化がなされる」という事業運営上の優位性をつくることができるようになります。

例えば、歯科医院の規模が20名を超えてくるようになると、職種ごとの専門性が高まり、分業も進みます。

「カウンセリング」を専門に行うスタッフを活用したり、「フロアマネージャー」として診療室全体のマネジメントをするスタッフを配置したり、「事務」に特化したスタッフを活用することで、患者様へのサービス品質を維持し、組織全体の生産性を高めていくことができます。

また、これまでは「人あたりが柔らかい人」だけでを採用していたが、それでは組織が管理できなくなり、厳しい指導をできるようなタイプの人材や、医療よりはビジネス的な発想が強い人材が必要になってくるようになります。

この「多様な人材を採用する」という発想は「自社に合うスタッフだけを採用する」という考えとは一見逆の方針を示しているように感じるかもしれませんが、そうではありません。

組織が大きくなっていく段階に応じて、院長自身が持つ『「理念」自体を成長させていく』という視点を持つことが大切です。

院長自身が持つ「理念」がより多様な個性を持った人材、スタッフたちの向かうべき方向を統合できるような内容に成長していくこと。また院長自身が、そうした多様な人材の「強み」や「長所」を愛せるようになること、活かせるようになることが事業成長にはかかせません。

例えば、開業時の理念が「当院に来院された方の希望にとことん寄り添い、全力で願いを叶える」という内容であったものが、スタッフ数20~30人へと成長していく段階では、「当院に来院された方の希望にとことん寄り添い、全力で願いを叶えるために、チームメンバーがお互いの長所を活かしあい、常に最新の技術や知識、システムを取り入れます」のように、「多面的、立体的」、あるいは、〇〇地域のから日本全国など「空間的」なもの、さらには「100年先の」など「時間的」に、進化していくようなイメージです。

歯科医院運営における理念の浸透

スタッフへ理念が浸透

次に、多様な人材、高度な診療体制をチームとして活き活きと連携させていくために大事なことが「理念の浸透」です。前述の出口氏は、「その多様性のある人をまとめ上げるには経営計画とマニュフェストが重要であり、重要なことは何度言っても言い過ぎることはない」とお話されています。 

その経営計画やマニュフェストをどのようにスタッフに落とし込むのかというと、毎朝メールで全社員に対して簡単な挨拶とともにお客様からの言葉、最近感じていること、自身の想いなどを発信し、組織づくりに生かしていることと、ちょっとした会話や説明の時にも同様に想いを述べられているようです。

では、歯科医院運営ではどのように実践することから始めればよいでしょうか。

まずは、院長が大切にしている

  • 「患者さまへの想い」
  • 「スタッフへの想い」
  • 「診療に向き合う気持ち」
  • 「今年の重要な課題(経営計画)」

など、事あるごとにお伝えされることによって、スタッフが徐々に院長の考え・価値観を理解し、同じ方向を向いて仕事に臨むことができるようになってきます。

私がサポートさせていただいている医院様の中でも、特にチーム力や、その成果としての業績が高い医院様の取組みをご紹介します。

この院長は、診療の合間や診療終了後に、次のようにスタッフに問いかけます。

「さっきは〇〇のようにしたけれども、当院の理念から考えて、どうしたらもっと患者さまのためになったと思う?」

また、

「このような治療の仕方は当院の診療方針とは異なるから、次からは〇〇のように変えていってほしい」

など、日常の診療で「具体的なケース」をとらえて、丁寧に理念や方針を説明され、理念に基づいたスタッフマネジメント手法を用いています。

このように、具体的ケースを踏まえて説明されることで、はじめて「自分の仕事」と「理念」の関係が腑に落ちてきます。その結果、院長の目が届いていないところでも、院長の考えや方針に沿った仕事・判断ができるスタッフが育ってきます。

ポイントとして「具体的な事例が起こる際に都度、理念の解釈を嚙み砕いてお伝えすること」がスタッフへの理解と浸透に繋がってきます。

理念に沿った行動を評価する

また、別の医院では理念への理解や定期的な内容の確認を促す目的として、理念に沿った行動を評価する仕組みを取り入れております

「人事評価の項目」に入れる

理念に沿った行動を評価する取り組みの1つとして、多くの医院様でも取り入れていると思いますが、人事評価制度に組み込むこと。理念への理解や実際の行動を人事評価の項目に入れることにより昇給や賞与のタイミングで理念を再度理解すること、さらに、それを実行することで評価を受けることが意識でき、浸透につながってまいります。

「年間表彰制度」

年間表彰制度

もう1つ、評価をする具体的な取り組み事例として、年間表彰制度の中に組み込むというものです。

ある医院では、年始の全体会議の場で昨年の優秀スタッフを表彰する制度を取り入れて、評価基準に理念への理解や実際の行動を起こした人を基準として対象者を選定しております。

最優秀賞(MVP)の選考については、12月のミーティング時にスタッフ全員に対して「今年もっとも理念に沿った行動をとった人」のアンケートを行い、もっとも得票数の多かった人がMVPとして表彰される仕組みになっています。

院長からだけでなく、スタッフみんなから選ばれるMVPですので受賞者の喜びはひとしおとなるだけでなく、他スタッフの模範ともなり、同じような行動をしていけばよいことが意識づけられます。

また、スタッフアンケートだけでなく、院長視点で、もっとも理念の浸透に関連して貢献をしてくれた人を「院長特別賞」という形で表彰するとともに受賞理由を共有することで、院長が何を重要に考えているのかを理解してもらう一助になります。

ちなみに、私の担当医院では、院内の清掃だけでなく、患者様の導線を考えた環境整備まで対応をしてくれたパートのクリーンスタッフさんに院長特別賞が表彰された事例もありました。

まとめ

このコラムでは、これからの歯科医院経営において「理念」がどれだけ重要か、また小さな一歩から始めるコツについてご紹介してきました。

こうした「理念浸透」による「良き組織カルチャー」が醸成されることで、「多様な個性を持ったメンバー」による「生産性の高いチーム」を形成していくことが可能となります。この場合「理念採用」による同質スタッフのチーム力より、「異質な強みと強みが掛け算となる」高いパフォーマンスを発揮できるチームとなります。

医院がまだ小さいうちは、院長の想いに合う方を採用する、規模が拡大するにつれて、理念の浸透を図っていく、大規模化した中では多様性を認めつつも中心概念である理念の理解と実際の行動、について意識していくことでスタッフの人数や個性が変わっても理念を通した医院経営が大きく変化することなく脈々と受け継がれていくことに繋がることでしょう。

よい人材を採用したいとお考えの先生、また、よい組織カルチャーを醸成したいと感じている院長先生、ぜひ「理念採用」「理念浸透」の取り組みについて、見直してみてはいかがでしょうか。

みなさまの歯科医院経営の繁栄をお祈りしております。

この記事の解説者

Mr.歯科事務長

高橋 浩一 Koichi Takahashi

千葉県出身 血液型AB型

外資系洗剤メーカーの業務用部門にて営業を担当しその後、歯科診療サポート会社にて13年間勤務する中で、歯科検診業務や新規開発部門、歯科事務長を経験する。

事務長職の時、診療の腕も良くホスピタリティマインドもあり、人間性に優れているのに、経営のスキルが無かったためにご自身の医院を廃業してしまった先生とお会いする経験があった。

そのような先生を事務長としてサポートすることができれば、医院の成功と業界の発展に貢献できるという思いがあった中、MOCALに出会う。「MOCALなら、全国に事務長を展開できる可能性がある!自分が考えていた事が実現できる!」と思い、この新しい歯科経営サポートモデルの普及に参画することを決意する。

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