歯科医院で人を活かす「ジョブローテーション」とは?

目次

人材の「適材適所」という考え方

「スタッフのモチベ―ションが低い…」「幹部スタッフが育ってこない…」「院長である自分ばかり忙しい…」歯科医院経営の中で、いわゆる人材の部分、スタッフマネジメントでお悩みの院長先生は多いのではないでしょうか。

松下幸之助氏は折に触れ「企業は人なり」と説き、ドラッカーもまた「企業とは人であり、その知識、能力、絆である」といった言葉を残していますが、歯科経営の場合もサービス業の側面が大きく、人材というリソースを活用してどれだけ付加価値を生み出せるのかが事業成長発展の肝であると思います。

よく「適材適所」という言葉が使われますが、この言葉の意味は「人を、その才能に適した地位・任務につけること」、つまり人の才能が先にあって、その人が能力を発揮できる場所に配置する・発揮できる場所を作るという考え方です。 ※場所に人をあてはめる「適所適材」とは言いません。

では、どのようにしてその人の強みや才能を見抜き、組織の中での適材適所を行い、人材を最大限に活かしていけばよいのでしょうか。
今回はその手法の一つ「ジョブローテーション」についてご紹介してみたいと思います。

人材の「ジョブローテーション」で強みを発掘する

人をずっと同一ポジションに配置しておくと、一定のところで人の成長の停滞やマンネリ化を招いたり、全体最適より部門最適を優先させようとするセクト主義を発生させたりすることになってしまいます。
そのような組織の硬直化を防ぎ、人材の成長やその人の強みを発掘していくために、「あるポジションでひと仕事させたら、また未経験の仕事・別のポジションにつかせ、色んな仕事を経験させる」というジョブローテーションの手法は、一般企業でも用いられています。

歯科医院で言えば、診療補助メインの歯科助手に受付やカウンセリング担当を任せてみる、予防担当の歯科衛生士にインプラントや矯正治療の担当を経験させる、また中堅スタッフになってくると、診療時のフロアーリーダーやミーティングの進行管理を持ち回りで担当させるということもあると思います。

色々な仕事・ポジションを経験させることで強みの発見はもちろんですが、歯科医院全体を俯瞰した視点を養うことができ、将来の幹部候補、マネジメント人材を育てるという狙いもあります。

歯科医院での適材適所・ジョブローテーションの例

  • 説明が上手で患者様との関係づくりが上手なスタッフに、患者様コンサル・TC業務を任せる
  • 細かな仕事が得意で割とで何でもそつなくこなすスタッフに院長の秘書業務を任せる
  • 面倒見がよく後輩に慕われるスタッフに教育係を任せる
  • 俊敏で気の利くタイプを院長補佐としてアシスタントを任せる

ただし客観的に強みに見える点と、本人の意欲とが必ずしも重なっていないこともあるので、一方的に決めつけるのではなく、本人の意欲や関心がどこにあるのかを把握することが大切です。
そのためには普段から個々のスタッフの働きぶりを見たり、コミュニケーションの時間をしっかり確保して本人の志向性やモチベーション状況を認識しておく必要があります。

「プロジェクト活動」で見えてくるスタッフの強みや資質

また、ローテーションが容易でスタッフの思わぬ才能や強みを発掘できる「プロジェクト活動」もおススメです。取り組まれている歯科医院様もいらっしゃると思いますが、医院経営において診療業務以外での重要な取り組みを、期間と目標を定めてチームに分けて実行していくもので、教育プロジェクト、SNS促進プロジェクト、マーケティング強化プロジェクトなど様々なプロジェクト活動を通じて、個々の強みや資質を発見できることがあります。

私の担当歯科医院での事例です。
矯正の患者さんを増やすため、ある中堅スタッフを「矯正プロモーションプロジェクトチーム」のリーダーに任命。彼女はどちらかというと控えめな性格で、決して目立つタイプではありませんが、仕事はコツコツ真面目にやるということもあって任せてみることにしました。

プロジェクトがスタートしてみると、矯正歯科ブログの執筆に苦戦するメンバーをフォローしたり、遅くまで残ってプロモーション用の症例を集めたり、ネガティブな発言をする年長スタッフのグチを受け止めつつ、院長に相談して一緒に対応を考えたり、さまざまな苦労を乗り越えて、無事メンバーと一緒にプロジェクト目標を達成することができました。
その中堅スタッフの仕事ぶりから、「医院への貢献意識」「リーダーとしての責任感」「メンバーへの気配り」「目標達成への熱意」を感じ取った院長は、次の有力な幹部候補を見つけることができたと喜んでいました。

それ以外にもプロジェクト活動によって、面白いアイディアを出す人、意見をまとめるタイプの人、文章力が高い人、マニュアル作りなど体系化するのが得意な人など、個々の様々な強みが見えてくることがありますので、ぜひおススメです。

仕事を任せるときのコツ

その際にただ新しい仕事を任せるだけでは、スタッフにとっては負担や面倒に感じてしまい、モチベーションを下げてしまうなど逆効果になってしまいます。仕事を任せるときは、その仕事の目的や意義、また他の人ではなくなぜあなたにその仕事を任せるのかの意義づけが、マネジメントにおいては重要です。

「この仕事はうちの歯科医院にとって〇〇の意義がある」
「あなたの〇〇の強みや意欲が生かせると考えている」
「あなたの成長、キャリアのステップアップになる」

といったようにその人にとってのメリットを伝えてあげると、任されたスタッフも前向きな姿勢で取り組むことができ、成果も上がりやすくなります。
また、仕事を任せるタイミングも、そのスタッフのキャパシティやコンディションを見て依頼することが大事だと言えるでしょう。

「人は自分の才能を認めてくれる人のために働く」という経営者や上司にとっては少々厳しい言葉もあります。
まずは、休日のどこかで時間を取ってスタッフ皆さん一人ひとりの強み(弱みも)を、日々の仕事ぶりを振り返りながら書き出してみてはいかがでしょうか。そうすると「〇〇さんは〇〇の仕事で力を発揮してくれるのでは?」といった人材を活かす新たな発見があるかもしれません。

最後に、戦国武将 武田信玄が残した言葉「人は石垣、人は城、人は堀」を引用する形で、名経営者である稲盛和夫氏が述べた言葉をご紹介して終わりにしたいと思います。

「組織は石垣のようなものです。石垣には大きな石もあれば小さな石もあります。スマートな小さな石だけ並べても風雪には耐えられない。小さい石が間に詰まっているから、石垣がカッチリ組まれているわけです。そういう大きな石、小さな石をきれいに積んでいって、一つの大きな石垣をつくりあげていくのが経営なのです。しかもその小さい石も大きい石も、すべてが機能し生きていなければならない」

<出典「人を生かす 稲盛和夫の経営塾」稲盛和夫>

この記事の解説者

Mr.歯科事務長

宮原 寛行 Hiroyuki Miyahara

福岡県出身 血液型O型

Mr.歯科事務長の哲学と実務にもっとも忠実に、常に真摯にお客様をサポート。「信頼には必ず応える男」として多くのお客様から熱い支持を受ける。サポート実績No.1。

院長の良き参謀役かつ実務推進者として、業績向上マーケティング・院内仕組みづくり・経営相談役などを担い、数多くの院長の個性や強みを活かしたビジョンの実現・クリニックのオリジナルの発展繁栄に貢献。

現在は、大型法人向けの事務局アウトソーシングサービスも担当し、事業モデル構築・組織化を推進している。

よろしければシェアをお願いいたします
  • URLをコピーしました!
目次