歯科医院のマネジメントとは? ~成長する歯科医院の人材戦略~

このコラムでは事業としての歯科医院経営に差をもたらす「歯科医院のマネジメント」について、歯科医院の経営者である院長向けに情報をお届けします。

歯科医院にかかわらず「マネジメント」に関する書籍や理論は数多く紹介されています。このコラムでは、学問的定義にとらわれず、実際に400医院以上の歯科医院運営に携わってきた実務的な観点から、特に「人」に焦点を絞り、「成長する歯科医院のためのマネジメントのポイント」をご紹介します。

目次

院長が行うべき歯科医院のマネジメントは「人を活かすこと」

「マネジメントをしていますか?」と聞かれて、「具体的に自分はマネジメントを意図的に行っている」という感覚をお持ちでしょうか?

かく言う私も、企業でのマネージャー職時代や、起業後も数年間はプレイヤー意識がメインで、マネジメントを知識的に理解していても、意図的に取り組んでいる感覚はありませんでした。

現在、起業から一定期間が経過し、社員数も増え、プレイヤーから経営者業がメインとなりました。

その過程で自分自身が経験したことと、数多くの歯科医院のサポート経験から言えることは、「人を活かす」という視点からマネジメントをとらえることで、効果的な打ち手が見えてくるという点です。

以前、インタビューさせていただいた院長のコメントが大変分かりやすいので一部抜粋してここで紹介します。
(院長の経営成功術:Vol.10 医療法人社団明敬会 理事長 滝澤聡明様)

滝澤聡明先生のコメント抜粋

「いかにスタッフが患者さんから評価されるように環境を整えるというか、どういう武器を持たせてあげたら、うちのスタッフが支持されるのかっていうのはやっぱりちょっと考えるようになりましたね。」

「例えば江東区なら江東区のクリニックで、当院の勤務医の先生方が周りのもっと経験のある、院長クラスの先生達と戦うためには何をサポートすれば、支持をいただけるのかなっていうのを、やっぱり考えるのは経営者の仕事じゃないかな。だから経営者の場合はやっぱり裏方に回って、いかに、芸能プロダクションじゃないですけども、うちの歯科医師を患者さんに売り込めるか。」

「結局医院の停滞っていうのは院長が他の勤務医の先生を成長させないために停滞することが多いと思うんですよね。若い先生は伸び代がいっぱいあるので、若い衛生士、若いドクターと衛生士はですね。20代、30代はどんどん伸びるので、その先生にもっと活躍するチャンスを与えれば、必然的に売り上げっていうのは上がるんじゃないかなーと思っていて、自分が出しゃばっちゃうと、院内で結局院長が、その勤務医と衛生士の成長する部分を潰してしまっている。」

「年齢がいけばいくほど働き方っていうのを変えるべきじゃないかなと思っていて、年齢がいけばいくほど、人をうまく成長させながら売り上げをつくるような。で、自分が今まで経験してきた知識を効率的に伝えてですね、少ないミスで少ない失敗で、成長させるのが上の役目じゃないかなと思っています。」

実際に歯科医院を経営している院長の言葉なので、とてもイメージしやすいのではないでしょうか?

マネジメントに関するさまざまな定義、理論、最先端を感じさせるカッコイイ横文字、それらしい図式など、次々に新しい手法が紹介されていますが、「人を活かすこと」、「スタッフのポテンシャルを発揮させて成果をあげること」という定義こそ、実際の歯科医院のマネジメントに成果をもたらす考え方です。

歯科医院マネジメントの最初の一歩「人材へのリスペクト」

次に「人を活かす」ための大切な最初の一歩について考えていきます。
これまで最初の一歩でボタンの掛け違いがあることで、多くの医院で不幸な状態を起きていることを数多く目にしてきました。

例えば
「規模は大きくなったが生産性が低い」
「スタッフがどんどん入れ替わり安定しない」
「人間関係のトラブルが多い」
「自分の医院なのに行きたい場所ではない」
などです。

「人を活かす」にあたってもっとも大切な前提は、相手にも感情があるという当然の前提をしっかりと受け止めて、「信頼関係」というマネジメントの土台を構築するということです。

「補助者」から「協力者」へ

これまで500人以上の院長、歯科経営者と一緒にお仕事をさせていただいてきましたが、成功軌道に乗るための「最初の一歩」として多くの方が指摘されたことに一つのパターンがありました。

それはスタッフが「作業補助者」から「共通の目的を実現していくための協力者」に変わったというポイントです。

では、どうすればスタッフが「協力者」となってくれるのでしょうか?
実は、ここで大きな「観の転換」が必要なことを、多くの院長がご自身の失敗を振り返りつつ述懐されています。

スタッフはオレのためにいる

お話を聞いた院長の多くは、開業後に「自分の思うように動いてくれない」、「自分だけが忙しく、自主性がない」など、スタッフに対する強い憤りやストレスを感じ、ひどい場合はご自身も体調を崩されたという話しも少なくありませんでした。

その苦しみやスタッフとの葛藤、事件の中で、ある「気づき」にたどり着きます。
それは、「スタッフを自分の目的達成の道具のようにしか考えていなかった」という反省や、「スタッフ一人一人にも固有の人生があり、それぞれが自分自身の幸福のために働いている」という事実についてです。

経営者への脱皮

この気づきを得ることは「経営者への脱皮」、あるいは「経営者への器の成長」と言えるのではないでしょうか。

「職人的に診療を行っているレベル」と、「人を雇って事業を行う」レベルは、やっていることは同じように見えて、実はひとつ「次元」が変わります。
そして、この「共通の目的のために働くチーム」という次元に上がるためには、スタッフとのもう一段深い「信頼関係」を築くことが必要です。

スタッフに「この院長にならついていける」「ここで働くことが自分自身のためになる」という感覚を持っていただくことが必要です。この信頼関係が「マネジメントの土台」であり、スタッフが医院の目的のためにパフォーマンスを発揮する前提条件でもあります。

この信頼関係を築くときに重要こと。それは、院長の考え方が「利己的」であるか「利他的」であるか?という視点です。スタッフは雇用者である院長にはっきりとものを申すことはほとんどありませんが、スタッフは「院長が自分のことしか考えていない」か「自分達を大切に思ってくれている」か、その点をよく観察しているものです。

信頼を築く具体的ポイント

信頼を築くための本質を簡単に表現すれば「スタッフを大切にする(固有の人生を生きている存在として本質的にリスペクトする)」「愛情をかける」「福を分ける」ことです。

これを歯科経営の現場で具体的に展開すると例えば以下のような観点が挙げられます。

  • スタッフが自信を持てる診療であること(稲盛和夫氏のいう「天に見られても恥ずかしくないサービス」)
  • 雇用に対する責任感を感じていること(スタッフの生活を守る、相手の人生への敬意)
  • 単なる労働対価としてのお金だけでなく、仕事のやりがいや成長などメンタル面の報酬(成長している、役に立っている)について考えてあげること

こうしたポイントに配慮し、経営体力が許す範囲で一つずつ実現していくことが信頼関係を深めていきます。

すべての条件が整わなくても、そうした院長の姿勢や想いは確実にスタッフに伝わり、協力者として想像以上に力を発揮してくれるようになります。

二宮尊徳の「たらいの水の例え」

私自身も自戒のために大切にしている二宮尊徳の言葉をご紹介します。

『欲心を起して水を自分の方にかきよせると、向うににげる。人のためにと向うにおしやれば、わが方にかえる。金銭も、物質も、人の幸福も亦同じことである。』

経営者には、社会のリソースである人材を活かして世の中を少しでも良くするという使命があります。そのためには、上記のような価値観を根本に持つことが、とても大切なことであるのではないでしょうか。

10人規模の歯科医院のマネジメント「人を活かす」

ここからは組織規模ごとに意識したいマネジメントのポイントを考えていきます。

歯科医院運営でも10人を超えるころには、それ以前の「阿吽の呼吸で動いていた時期」と比べて「仕事内容」や「人間関係」に変化が生じてきます。

仕事は少しずつ「分業化」や「専任化」が必要となるとともに、チームとして医療サービスを有機的に連動させるための業務が増えてきます。「受付兼助手」から、「受付」と「助手」とそれぞれ専任化して業務効率をあげることや、サブカルテやインカムで情報を共有する業務などがこれにあたります。

また組織は人間の数が増えることで、相互の関係性は比例的に増えていきます。
女性の職場である歯科医院では、男性のような競争心による能力発揮ではなく、調和を保ち、平準化していく傾向にあります。この傾向から高いポテンシャルを持っているスタッフでも、周りに遠慮してパフォーマンスを発揮せずにいることが思っている以上に多くあります。

10人規模の組織は、固まったルールや手順による管理的なマネジメントスタイルをとるのではなく、一人一人のポテンシャル、強みを引き出して、最大のパフォーマンスを発揮させる「人を活かす」ことを主眼にしたマネジメントスタイルが効果的です。

この規模で意識したい歯科医院のマネジメントのポイントは以下の二つです。

スタッフの「強み」を活かす

10人規模の組織であれば、まだ院長が一人一人の志向性、能力、強み、得意なことを見出して活かすことが可能です。
この時にスタッフの強みが見えるかどうかは、上の項で記載した「人材へのリスペクト」にかかわってきます。

スタッフの強みはさまざまにあります。このような人材はいませんか?

  • 人をまとめることは苦手だが、患者さんへの応対は素晴らしい
  • コミュニケーションは苦手だが、手先が器用で仕事が速い
  • 丁寧な仕事は苦手だが、人当たりがよく話題が豊富
  • 理解力は強くないが、単純作業は正確に黙々とこなすことが苦にならない
  • 言葉づかいはきついところがあるが、責任感が強い
  • 目立たない存在だが、イラストや文章、デザインセンスが高い
  • 能力は高くないが、忠誠心や愛社精神が強い

例えば、「人をまとめることは苦手だが、患者さんへの応対は素晴らしい」というスタッフには、人をまとめるリーダシップを求めるのではなく、患者さんの応対見本をみなに示してもらうとともに、全体の応対クオリティをあげるための「医療接遇担当」としてプログラムを構築運用してもらうことで強みを発揮してもらう。

また、「コミュニケーションは苦手だが、手先が器用で仕事が速い」というスタッフには、そうした強みが活きる患者さんや仕事を多めに配当して、パフォーマンスを発揮してもらう。

など、単純に「受付の仕事」「助手の仕事」「衛生士の仕事」という標準的な仕事に、スタッフを当てはめる考え方ではなく、その仕事の中でも、より強みが活かせる仕事を多めに配分したり、その強みが全体に貢献できるような役割を果たしてもらうようにすると、医院が活性化し、生産性も高く、帰属意識や愛社精神の高いチームになっていきます。

基本理念・方針を示す

この時に大切なことは、お互いに「嫉妬」をしたり、「不公平感」がでないような「共通認識」を醸成することです。この「共通認識」を醸成するために大切なものが、いわゆる「理念」や「仕事観」と言われる「医院としての価値観や方針」です。
しかし、この規模の段階ではそれほど立派に理念をまとめる必要まではありません。

院長自身が「何を大切にしているのか」、「患者さんやスタッフにとってどんな組織でありたいのか」、ご自身の想いのこもった言葉で繰り返し伝えること。また、日頃の仕事でみながバラバラの方向を向かないためには、診療業務の重要なポイントについて、基本方針を示しておくことが大切です。

20人規模の歯科医院のマネジメント「チーフを育てる」

次に20人規模の歯科医院のマネジメントについて考えていきます。

この段階まで来ると、少しずつ「組織」について考える段階となりますが、「人」という観点で見たときにもっとも大事になるのが中間管理職である「チーフを育てる」という取組みです。

この段階では「分業化」に加え、多くの患者さんを診療できるように、さまざまな手順やルール、付随作業が積み重なり始めており、各セクションの状況、仕事の品質を院長ひとりでは把握できなくなっていきます。

そこで、医院にとって大切すべき価値、方針を各セクションに落とし込むために。また、現場の状況を院長に正しく伝える役割として、中間管理職の役割を果たすチーフ(企業では係長的な役割)が必要になります。

20人規模であれば、2名程度の適材をチーフに得られれば、組織運営がとてもやりやすくなります。

適材をどのように発掘するか

この時よく相談されることの一つが「チーフ候補」がいない、という問題です。
確かに、チーフとなるポテンシャルを持った人材は多いとは言えません。またそうした人材を採用することも簡単ではありません。現実には、できるだけ現有メンバーの中で可能性がある人材を発掘し、育てる努力をすることが大事です(そうした努力をする医院には、やがて良い人材が入ってきます)。

日常の仕事を見て適材を見つけられない場合に有効な取組が「プロジェクト活動(委員会活動)」などの小集団活動です。「5Sプロジェクト」や「キャンセル対策プロジェクト」、「口コミ紹介プロジェクト」など、取組の概要についてはご存知の方が多いと思います。

この小集団活動では、日常の診療業務のヒエラルキーとは別のシーンで協同することになるため、普段は埋もれているスタッフの強みを発見することができます。
リーダシップを発揮したり、細やかなメンバーへの配慮をしたり、アイディアや発想が豊富だったり、パソコンでの制作物がとても上手だったり、さまざまな強みや能力をスタッフの中に見つけることができます。

どのような素養のある人材をチーフに抜擢するか

では、どのような素養のあるスタッフをチーフに抜擢すればよいでしょうか?参考にいくつかのポイントをご紹介します。

「真摯さ」がある人材

仕事や人に対して誠実であること。人間としての根底に正直さ、真面目さをもっていること。これが上からも下からも信頼されるための一番大切な前提条件です。

医院理念への共感、院長へのポジティブな信頼感を持っていること

チーフは中間管理職という位置に立ち、医院の価値観や方針を下に伝えることが仕事の一つになるため、そもそもこの組織の価値観に共感していることが大切です。

利己的ではなく他のスタッフから信頼があること(少なくても嫌われていない)

自己中心的な人間は組織の調和を乱します。自分の利益とみんなの利益が相反する場合に、みんなの利益を選べることが必要です。

仕事に精通していること(職場で一番ではなくても標準以上であること)

歯科医院も機能組織である以上、仕事に精通することは必要です。ただし、この考え方をつきつめると、年功序列に近い人事になるため、幅を持った考え方が必要です。少なくても平均以上の仕事ができて、新人が入社した際には、標準的な仕事を教えられる程度のスキルは必要と考えればよいでしょう。

チーフにどんな役割を期待するか

管理職にもレベルはさまざまにあります。20人規模の歯科医院のチーフであれば、以下のような役割を期待することが現実的です。

  • 医院の価値観に基づいた仕事を体現できる(体現する努力をしている)
  • 院長からの方針を担当セクションのメンバーに(私情をはさまずに)伝えること
  • 現場の状況(仕事やメンバーの様子、問題)を院長にあげること
  • 担当セクションのメンバー間の調和に心を配る、フォローが必要なメンバーのケア
  • 他のセクションと必要な調整を行う窓口
  • 通常診療以外のその時々に指示された特命事項(新人教育、マニュアル整備、システム導入)

簡単に列挙していますが、実際にこれを全てきちんと行えるチーフ人材は多くありません。上記の一部だけを依頼する。足りない部分については院長自身がフォローする。「サブチーフ」を組み合わせることで一人前の仕事をしてもらうなどの工夫も大事です。

また、チーフ業をするためにはそれなりの環境も必要です。1人分のプレイヤー業務もしながら、その他のチーフ業務もさせるなど無理な負荷がかからないようにし、チーフが力を発揮し成果をあげるためのバックアップをすることも、院長自身のマネジメント業です。

責任感が強いチーフがいる医院では、毎晩遅くまで残業をしたり、家に仕事を持ち帰って家族からの不興をかったりしていることを時々見かけます。そのチーフ自身はやりがいを感じていても、その次以降のチーフ候補が「チーフにはなりたくない」と考えることになるため、注意が必要です。

現実的に、歯科医院を永く運営していくという観点から考えた場合、スーパーチーフ人材の責任感に頼る形にならないよう、仕事を設計することも大切です。

30人規模の歯科医院のマネジメント「マネージャーを育てる」

30人規模の歯科医院のマネジメントについて考えていきます。

この段階になると組織運営がだんだんと重くなってきます。各セクションのチーフを通じて、日常の診療運営や新しい戦略的な取り組みなどを行ってきましたが、指示や方針が形になるまでのスピードが落ち、うまくマネジメントできない場合には、売上や仕事の効率が落ちたり、明確な理由がわからないままスタッフ退職が続くなどの事象に見舞われることになります。
ここで起きていることを簡単に表現するなら「マネジメントが行き届かなくなる」という状況です。

組織が拡大すると、関係性の数が比例的に増えていくことが加速するだけでなく、スタッフにもさまざまなタイプ(能力、価値観、意識レベル)が増えていきます。また多くのプレイヤーが一定の成果をあげるために定めた手順やルールも増え、仕事がより高度化、複雑化、煩雑化していきます。

「考え方とやり方を規模相応に変えていく必要がある」、とさまざまな経営書で指摘されている通り、この30人規模になると「組織的な運営」という視点を持つことが必要になります。

コミュニケーションの質と量、運営の手順、教育の仕組み化など、より体系だった運営に切り替えていくことが必要になります。そして、この時に必要となってくるのが「マネージャー(企業レベルの課長的な人材)」の存在です。

20人の規模では「チーフ」という中間管理職を軸に組織をマネジメントしてきました。この段階でチーフに求められる内容は、管理職ではあってもプレイヤーに近い立ち位置での役割でした。そして実際には、マネジメント業務は院長が行うスタイルです。

30人規模になると、院長に加えて、「マネジメント」を主たる役割として果たす人材がいなければ、組織の運営に困難を感じるようになります。

マネージャーを誰に任せるか?

マネージャーは、チーフ以上に得難い人材であり、チーフ以上に資質が重要です。ただ一定規模の法人ともなれば、ポテンシャルのある人材がいることが多いように見受けられます。

一般的にはチーフの中から、より責任感が強く、スタッフからも一目置かれ、信頼のある人材を任命することが多いでしょう。また、プレイヤーよりマネジメントとしての役割に重点を置くため、例えば、受付や助手から診療部全体のマネージャーに任命しても問題ありません。

人材の資質として大切なことは、チーフの要件とも被る部分が多くなりますが以下のポイントがあげられます。

POINT
「人としての信頼感」があること

これは「真摯さ、誠実さ」による人格、仕事の実績、利他的な言動が積み重なってきたその人への周りからの信頼です。

POINT
「責任感」を持っている

マネージャーとしての役割を全うすることに対する責任感。仕事に対する真剣さ、熱意があること。この医院で仕事をすることが自分の主たる関心毎になっている。

POINT
「忠誠心」があること

医院の理念に共感する、院長を尊敬することを一段推し進めて、医院が目指すことや院長のビジョンのためについていきたいという気持ちが強いこと。

POINT
人事についての基礎能力があること

マネージャー業に大切なことは、院長にとってのマネジメントと同様「人を活かすこと」です。その意味で、人の気持ちが分かる。人の立場が分かる。人を大切に思える。自分の感情が安定している。誰とでも等距離で誠実なコミュニケーションが取れるなど、人事的に大人であることが重要です。

POINT
仕事の「段取り力」があること

一つの目的や仕事のゴールに向かって、手順を考え、関係各位と調整し、報連相をしながら、仕事を仕上げていく段取り能力も必要とされます。

マネージャーに期待される役割

この規模の歯科医院のマネージャーとして期待される役割には以下のようなものがあります。

  • No.2として院長をリスペクトする。その後ろ姿で組織統率を補佐する
  • セクションを超えた診療部全体の課題解決の実務責任者
  • セクション間の利害調整を行い、組織と仕事の調和を図る
  • その過程で、仕組み、手順、制度、ルールなど整理構築する
  • チーフの指導や相談相手
  • スタッフのかけ込み寺、人事トラブルの調停
  • 院長の特命担当として、時々の重点課題や戦略実現の実務担当者
  • 院長の話を聞き、理解し、共感する女房役的な役割

これらの役割を果たすためには、仕事力はもちろん、人間力が必要となります。
「人に功を譲り責は自分で受ける」、「院長とスタッフの双方の愚痴や苦言を受け止める胆力」、「成果がでるまでやり抜く忍耐力」など、人間としての成熟が成否につながる面があります。

マネージャーにはマネジメント領域の役割を期待すること、難易度の高い業務が中心となるため、診療業務などプレイヤーとしての仕事がメインではなく、マネジメントに関われる時間を確保してあげましょう。

マネージャーを育てるための視点

マネージャーを任せる人材には、資質も重要。仕事の成果も必要。本人の努力も必要です。そして院長がマネージャーを育てるための努力も必要です。

まずは「コミュニケーションの質量」がなんといっても大切です。常日頃から、院長の考え、見えていること、目指していること、仕事の姿勢、毎日起こるさまざまなことをどう捉え、スタッフには何を期待するのか、などOJTでしっかりとコミュニケーションをとることです。

なぜなら、マネージャーには昔から言われるように、ある面では「院長の分身」であるという面を期待するからです。同じ見え方、同じ価値観、同じ考え方を醸成する上でコミュニケーションは欠かせません。

そしてこれとも関連するもう一つの視点は「哲学(生き方や仕事についての普遍的な価値観)」をもって教えることです。マネージャーは幹部人材です。そして幹部人材とは、仕事の幹、組織の幹となることを期待されており、影響力も大きくなります。

影響力の高いポジションで仕事をする人材には、人としての正しさ、公平無私の態度、組織の公共性への理解など一部公人としての自覚が求められてきます。こうした人材を要所に配置できない場合には、組織の調和、モラルが維持できず、医療機関としての信用も徐々に落ちていくことにつながります。

正しさ、人への奉仕、公平な評価、社会的な正義、少し難しく聞こえる面もありますが、こうした人間教育のもとにある「哲学」を院長自身の言葉で教えていくことが大切です。

さらにもう一つ上げるとすれば、マネージャーは同志として、他のスタッフ以上に大切に遇するという視点も大切です。単に給与テーブル上で、マネージャー手当は●万円出せばよい、という感覚ではなく、その人材の人生に責任を持って、自分と一緒に道を歩いてくれる人材として相応しい処遇を考えていってあげることも大切です。こうした院長の想いを意気に感じて、院長を支える補佐役として徐々に育っていくものです。

30人規模の組織であれば、マネージャー1~2名、チーフ・サブチーフが受付、助手、衛生士の各セクションに1名ほど適材を得られれば、安定した医院運営ができるでしょう。

なお、この段階から、組織的運営を本格的に考える時期に入ります。組織運営のための「マネジメントサイクル」をつくることや、「人材教育の仕組み化」などに手を打つことが重要です。
※組織運営の観点については、別のコラムで紹介していきたいと思います。

50人規模の歯科医院のマネジメント「事務長を育てる」

最後に50人規模の歯科医院のマネジメントについて考えていきます。

この段階になると、全ての状況を院長が把握し、判断や指示をしていくことに難しさを感じるようになります。 さらに、この規模となると、トップである院長も多忙で、数多くの重要な判断や考え事をしなければならないため、時間的、体力的にも厳しい状況になります。

特に、組織運営に付随する管理系業務、また会社的な運営体制を構築していくという、これまでになかった管理領域のマネジメント負荷が高くなります。

この段階での課題解決に重要な役割を果たすのが、管理・事務部門における管理職人材である「事務長」です。

事務長はどの段階で必要になる?

事務長の採用や活用については、医院の戦略や経営スタイルによって時期や人材レベルが変わりますが、概ね以下の基準で考えるとよいでしょう。

医業収入2億~3億

総務的な事務作業を適切に処理してくれる「事務担当者レベル」

医業収入5億

「事務部門チーフレベル」(数名の事務スタッフをマネジメント)

医業収入10億

「管理部門マネージャーレベル(事務局長)」(多様な職務の担当スタッフをマネジメント、法人全体の戦略・スタッフ系業務の取りまとめ)

※詳しくは「はじめての「事務長」採用と活用。失敗しないために知っておくべきこととは?」もお読みください

「事務長(事務部門チーフレベル)」に期待される役割

50人規模の歯科医院を支える事務長に期待される役割は、主に以下のような内容となります。

  • 事務部門全体のマネジメント(パートを中心に複数名の事務スタッフの取りまとめ役)
  • 医療法人における主要な事務領域(経理、労務、総務)のルーティン業務を滞りなく処理する
  • イレギュラーな業務、院長の特命業務
  • 外部との連絡、調整、連携窓口
  • 院長の秘書的な業務

「事務長(事務部門チーフレベル)」を誰に任せるか

この段階までの事務長は、ある面で「何でも屋」的な位置づけを期待されるため、柔軟で目配りができ、事務の処理スピードが高いことを要求されます。

求められるスキル・能力・経験・志向性

事務的な処理能力

正確、迅速に事務作業を処理できる基礎能力と志向性

柔軟な姿勢、目配り

院長が業務を指示しやすい人柄、よく気がつく・配慮ができる

忠誠心、口が堅い

院長への忠誠心があり、機密事項や人事情報など口が堅く、人間性に信頼できる

自己顕示欲が強くない

縁の下の力持ち的なポジションに適性がある

上記のような適性を持つ人材をどこから任命するか、以下のパターンにいずれかのケースが多くあります。

「診療部門から配置転換」

受付や助手スタッフに上記のような適性を持った人材がいる場合には、配置転換で事務長に任命してうまくいっているケースもあります。

「縁故者から採用」

兄弟や親せき、知人、出入り業者から縁故で採用してうまくいっているケースもあります。

「外部からの採用」

内部や縁故者で適任がない場合には、外部から採用して任命します。
この場合、大手企業の経験者より、中小企業の総務部門など、一人何役も幅広く業務を経験してきた方がうまくいくケースが多いようです。

事務長を育てるための視点

この段階での事務長は、基本的に院長への忠誠心、医院への愛着心などを基礎に貢献してくれています。
その意味で、まず一番に留意すべきは「事務長(その人材)を大切にする」という点です。

何でも屋的な立場で、大小さまざまな業務を裏方として処理してくれていますが、診療部門という現業部隊のように主役感もなく、感謝される機会も多くありません。また事務部門は、院長自身も企業の事務部門の状況を知らないことや、何をやっているのか見えにくいため、オーバーワークをさせてしまうケースが非常に多くあります。

「そんなに忙しくないでしょ?」「このぐらいの仕事なら1日あれば終わるでしょ?」「1人いれば十分でしょ?」のような感覚で、さまざまな業務を依頼しますが、実際には事務部門は、最後の砦に近い場所にいるため、調べたり、記録を残したり、確認を取ったり、ミスをせずに処理を行うために、手順を踏んで仕事を行うことが求められます。

事務長を使う上で、院長にはこの点をまずは知っていただくことが大切です。診療部門のように目に見えにくい分、業務負荷や業務難易度、困りごとなど、よく状況を把握するよう努めてください。

また、上記の背景から、事務方は放置されるケースが見受けられます。業務の進捗をしっかり把握することや、業務のすすめ方の相談を受け、指示やアドバイスを行えるよう、必ず「定期的なミーティング」の機会を設けてください。

さらに院長が思う以上に、細かな「判断」を必要とする業務が事務には数多くあります。定期的なミーティング以外でも、メールや電話での相談を受けやすい環境をつくり、相談や決裁事項に関しては、“明確に“方針を指示してあげてください。

院長の「迅速で明確な指示・決裁」が事務部門の生産性を高めるポイントです。
この50人規模で手に入れることができる事務長人材は、まだ本当の意味で、自分自身で仕事を構築し、発展させていくことは難しいレベルです。何を、どのように、という仕事の指示は、明確にしてあげてください。

事務長を育てる時に大切な視点は、「事務長には、組織内にモデルや見本がない」という点を理解しておくことです。相談できる相手は院長以外にいないことがほとんどです。
しかし、前述の通り、院長自身も事務部門の仕事のやり方については経験が少なく、事務長任せになっていたり、非効率なまま放置されることがままあります。

この課題に対して院長ができることは、

  • 自法人より大きな法人の事務部門の仕事方法の情報を集めて、事務長に具体的なやり方を示す
  • 自医院の事務部門に役立ちそうなビジネス書を選んで、事務長に学んでもらう
  • 弊社のような「事務長・事務局」を専門とする企業との相談窓口を用意してあげる(※)

などです。

※弊社では「事務長養成」や「事務局構築」についてもサポートしています

さらに、100人規模の組織になると、この事務部門に「事務局長」という企業の部長級の人材を活用することが必要になってきます。ほとんどの医療法人にとっては必要のない情報のため、このコラムでは50人規模までの人材戦略についてのご紹介とさせていただきます。

まとめ

以上、本コラムでは、歯科医院のマネジメントについて「人」という観点から規模別の代表的な打ち手をご紹介してきました。皆様の歯科医院マネジメントでお役に立てば幸いです。
なお、今回のコラムで紹介した「人」に力を発揮させるための「組織オペレーション」も、もう一つの大きなマネジメントの課題です。この観点についても、別途コラムにて情報発信してまいります。

MOCAL株式会社 今野賢二

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