歯科医院のマネジメント ~不況・乱気流時代の歯科経営の打ち手~

このコラムでは事業としての歯科医院経営に差をもたらす「歯科医院のマネジメント」について、歯科医院の経営者である院長向けに情報をお届けします。

歯科医院経営にも市場競争が働くとともに、労働人口の減少、物価高騰、コロナなど非常事態に対する危機管理など、経営環境の変化の影響に応じて舵取りが必要な時代となりました。こうした乱気流の時代の歯科医院マネジメントの効果的な打ち手についてご紹介します。

目次

採用・労務・人事マネジメントの打ち手事例

人に関わる経営視点して「人件費は最も高い経費」という考えから、「人的リソースは伸び縮みする」、さらに「企業は人なり」などの言葉が聞かれる通り、「人への打ち手」はもっとも成果の違いが大きく現れると言われています。

このコラムでは特に「適切な人材の採用」、「定着率の向上」、「生産性の向上」という3つの視点から、歯科医院マネジメントの効果的な打ち手事例を紹介していきます。

「人材の入口管理」~適切な人材を採用する~

ベストセラーとなった「ビジョナリーカンパニー」では、「誰をバスに乗せるか?」が大事であると指摘されています。実際、歯科医院の現場でも、一人のスタッフの影響の大きさを目の当たりにするケースは非常に多くあります。

あるスタッフがチーフに就任したことで、歯科衛生士一人当たりの診療実績(売上)が数十%向上するケースもあれば、組織内のガン細胞となり、売上、人間関係、無駄な対応時間など多くのマイナスを生み出すケースまで様々にあります。
こうした観点から、トップである「院長の価値観」や「職場カルチャー」に共感する人材を採用するための「理念採用」の取り組み事例が増えています。

具体的な取組としては、ホームページの採用コンテンツの充実(診療や経営に関する理念、信念、職場で大切にしている価値観、職場カルチャー等)、複数回の面接や主要スタッフの同席、体験入社(多い医院では3日間というケースもある)など、マッチング精度を上げるための取り組みが行われています。

定着率の向上~仕事の習熟は「生産性の向上」につながる~

人の採用には、採用コスト、教育コスト、労務管理コストだけでなく、既存スタッフへの精神的な負荷という目に見えないコストも要しています。
採用した人材が早期退職することは、目に見えるコストだけでなく、見えないコストも含めて経営的に大きなダメージにつながります。
また逆に、仕事に習熟することで「生産性が上がる」ということも見落とせない重要な視点です。
こうした観点から、定着率を向上させるために「人事マネジメント」に意図的に取組む歯科医院が増えています。

初期段階の具体的な取組としては、早期退職リスクを減らすための「教育体制の整備(教育担当者・教育プログラム)」や、定期面談の実施など、立ち上がり段階での丁寧なフォローを行うことが有効です。
実際の教育現場では、プログラムや運用体制が実態に合わなくなっていることや、教育担当者のレベルにバラツキがあるケースがあるため、時折、院長自身による品質チェックを推奨します。

初期段階を無事にこえて、長く勤務し、ポテンシャルを発揮してもらうために大切な視点として、一般的に「仕事そのものにやりがいがある」「自分の居場所がある」「未来が描ける」の3つが挙げられます。

「仕事そのものやりがい」を感じるためには、「貢献」や「成長」を実感できる仕事設計を行うことが有効です。
歯科衛生士など専門職は資格自体に仕事の設計がある程度含まれているため、比較的やりがいを持つことは容易といえます。
無資格のスタッフのキャリアプランとして、医院によっては、助手担当制として「患者マネジメント」に一定の責任を持たせる取り組みや、習熟度や適性により「コーディネーター」などの専門職。また「フロアマネージャー」という管理職への活躍の道を用意することで、人材のポテンシャルを引き出しつつ、定着率を向上させる取り組みを行っています。

職場を「自分の居場所」として感じられるためには「責任ある仕事」を担当してもらうことが有効です。
仕事に習熟していない段階では、本業で責任ある仕事を任せられない場合もありますが、その時には「係」や「プロジェクト活動」など、診療業務以外で責任ある役割を与え、努力や成果に対し、院長や職場の仲間から承認を得られることで「自分の職場」と認識できるようになります。

「未来が描ける」の部分で特に意識しておきたいことが、処遇面(特に給与)です。
人生設計の区切りとして一般に「25歳」、「30歳」、「35歳」など感覚的な区切りがあります。
「30歳の時に、〇万円程度の収入は欲しい」など、感覚的な金額と実際の給与額に隔たりがある場合には離職につながるケースは意外に多くあります。
ある年数に到達すると退職するスタッフが多い、と感じる医院では、周辺医院や企業の給与設定額を調査することを推奨します。
我々の経験でも、定期昇給額がはっきりしていて、長く勤めるほど収入が確実に上がっていくという「先が見える」職場では比較的定着率が高いという事例が多くあります。

女性の雇用が多い歯科医院では「結婚」による遠方への引っ越しや、育児期の時短勤務など、雇用に関する悩みがつきものです。
採用難の昨今では、人材を活かす工夫として「オンラインコールセンター業務」や「新人育成(週1~2回の出勤)」、「採用媒体やSNSの管理」など、女性のライフステージに合わせて継続的に活躍してもらう事例も増えてきました。

特に、チーフなど管理経験のあるスタッフの場合には、院長が行っていたマネジメント業務の一部を代行できるポテンシャルがあり時短勤務・オンライン勤務であっても大きな戦力になり得るため、一考の価値があるといえるでしょう。

定着率向上のための「人事マネジメント」に関する論点と事例を紹介しましたが、人事は奥が深く、個別の事情による臨機応変な対応が必要です。
その意味で、自医院でどんな取り組みが必要か?をリサーチするために、まずは「スタッフとの面談」から始めることをお勧めします。

生産性を向上させる~人材は伸び縮みするリソースである~

マネジメントの良否の違いは、生産性として現れます。
生産性とは「一人当たり」や「一台当たり」など単位当たりの付加価値のことです(生産性とは簡単にいえば、収益力が高い、筋肉質の財務体質)。特に差が生まれるのが「人の付加価値」です。スタッフ数が多く一定の規模の医院の場合は、仕組みや制度よるマネジメントを考える必要が出てきます。

効果的な事例のひとつに、業績や成長と連動した「給与システム」や「インセンティブ制度」、いわゆる人事制度の設計があげられます。
「人は、評価のされ方、報酬の支払われ方によって、働き方が変わる」と言われている通り、人事評価の設計は、医院としての理念・戦略・方針・目標がきちんと盛り込まれているかがその成否を左右します。

「目標達成と連動したインセンティブ」の場合には、スタッフは「インセンティブをもらえる取組」にフォーカスする傾向があり、効果は発揮しやすいが、医院全体のオペレーション最適化を損なう可能性が高くなります。「実績に応じた歩合型」の場合も同様に、個の仕事がフォーカスされ、チームワークを損なうことがあります。

「実績を賞与で還元型」の場合には、効果へのフォーカスは弱まりますが、数値以外に大切にしている取り組みなどとのバランスは取りやすくなります。

このように「何をもって評価されるのか?」という考え方によってスタッフの働き方、チームワークなどに影響が出てきます。

さらに、こうした業績に加え「成長評価」や「貢献項目」、「仕事態度」など、医院オリジナルの価値観を上手に味付けしていくことで、自医院にあった制度設計を進めることが肝要といえるでしょう。

もう一つ、人材の生産性向上という観点で有効な取組が「アウトソーシング」の活用です。
診療スタッフ人材は、診療のコア業務に集中させることで生産性を上げ、他の業務はアウトソーシングすることで、全体の効率を上げる考え方です。

一例として、機材の消毒・滅菌の「アウトソーシング」の活用があります。これは歯科治療で使用する基本セット等の消毒・滅菌を代行するサービスです。
診療スタッフは、使い終わった器具を軽く洗い業者が用意するBOXに入れるだけ。業者が代行した器具は、滅菌パックに入った状態で医院に届きます。

また、こうした業務をシルバー人材センターなど、安価で時間の融通がつきやすい方に代行してもらう取り組みを実践している医院や、院内の清掃業務をすべて業者アウトソーシングしている医院もあります。

歯科助手の採用も困難な昨今、このようなアウトソーシングや業務分担の工夫を行う事例が増えています。

その他にも、アポイントシステムや電子カルテ、診療アプリなどDXの取組や、人材育成などさまざまなマネジメントに取組むことで、生産性が向上していきます。

自費診療アップへの打ち手事例

どのような事業でも、顧客満足度を上げつつ、より収益性の高いサービス提供に移行する努力を行うことは、経営改善を考える際の基本的な取組です。歯科経営でいえば「自費診療」を増やす取組がもっとも即効性が高い取り組みの一つです。

この取り組みは、すでに多くの医院で取り組まれています。原則は「多様なニーズに応えるメニュー」、「情報提供(価値の説得)」、「オペレーションの効率化」の3つがあげられます。

多様なニーズに応えるメニュー

最近のトレンドとしては、急激にマーケットが広がっている「マウスピース矯正」や、子供の顎の成長と歯列を育てる「MRC矯正」など、時代のニーズをキャッチした新メニューに取組むケースが増えています。
臨床面での賛否の声はさまざまだが、ニーズに応えるという視点から、参考にしてはいかがでしょうか。
患者様に値上げと捉えられない形での値上げの方法の一つとして、新メニューの追加という方法をとるケースもあります。

「情報提供(価値の説得)」

「カウンセリングの強化」に、改めて腰を入れて取り組むという医院も増えています。
医療従事者の中には「自費のカウンセリング」という言葉に、「押し売り」をしているというニュアンスとして感じてしまうことが多いように見受けられます。
「良い治療を、熱意を持って勧めるということは、医療的な観点でも善である。」こうしたマインドセットをつくることに苦労するケースが多く見受けられるため、このコラムではあえて「価値の説得」という言葉を補足的に入れています。

「なぜこの治療方法があなたにとってメリットが高いのか」。こうしたことを、院長に代わって、スタッフが価値を伝えるための仕組み、人材養成を行うことは、とても投資対効果の高い取り組みです。

「オペレーションの効率化」

院長が「自費カウンセリング」を行うのが、もっとも成約率が高いのはどこの医院も同じでしょう。しかし「コア業務」に院長の時間を集中して生産性を上げるという観点から「トリートメントコーディネーター」や「コンシェルジュ」という説明役のスタッフとの「分業体制」を取るケースが、規模が大きくなるごとに増えてきます。

ここでの取り組みのポイントは「専任化」にあります。多くの場合、効率化の観点から、受付や助手との兼任で行うケースを見受けますが、担当スタッフにとって「本業意識」が育ちにくく、思ったほど成果がでないことがあります。
適性のある人材を「専任化」すること、「ツール」や「トーク」を院長自身がチェックすること、時間や場所をきちんと確保すること、など、成果を上げるために適切なリソースを投下するという院長の意志決定が、早く成果をあげるためのポイントです。

不況期の歯科医院経営に大切な観点とは?

院長のリソースが最も負荷価値が高い

ビジネスの競争社会では「不況期に二極化が進む」と言われています。これは不況期にトップが行う「経営判断」と「マネジメントの打ち手」により差が開いていくという事実を指摘した言葉です。

医療機関とはいえ、歯科医院を取り巻く環境も、非常に激しい競争下にあります。優劣を分ける要素をせんじ詰めれば、どれだけの経営リソースを持ち、どう活用していくか?ということにつきるともいえます。そして、歯科医院でもっとも主要なリソースが「院長自身」です。

経営を行うにはいくつかの機能が必要と言われています。「営業」「製造」「財務」「広報」「人事」「サービス」が代表的な機能です。そして経営者にも得手不得手があり、一人の人間がすべての機能を上手に行うことは不可能と言われています。
一定規模の企業の場合、役割分担や経営チームにより分業が図られますが、クリニック規模の場合には、院長がマルチで対応せざるを得ない状況がほとんどです。

アウトソーシングの活用

こうした観点から効果的な方法が「アウトソーシング」の活用です。
弊社では、「Mr.歯科事務長」という事務長のアウトソーシングサービス(事務長代行)を提供しています。

院長の時間やエネルギーを、競争優位をつくるための「診療」や「人材育成」、「経営判断業務」に集中できるように、さまざまな「マネジメント業務・事務機能」を代行するサービスです。
「採用」「マーケティング」「チームビルディング・組織作り」「仕組みづくり」「接遇教育」「レセプト点検」「バックオフィス業務」など、歯科専門の業務に熟知した事務長や事務局機能を、アウトソーシングで活用できる画期的なアウトソーシングです。

院長の経営リソースを補うアウトソーシングサービスを活用することで、経営のボトルネックを解決していくことは変化の速い時代の効果的な打ち手の一つといえるでしょう。

まとめ

このコラムでは、パンデミック、戦争、異常気象、財政危機など、乱気流・不況時代に力強く前進していくための歯科医院マネジメントの打ち手について紹介してきました。不況期・乱気流の時代こそ新しいマネジメントの打ち手について考えてみてはいかがでしょうか。

MOCAL株式会社 今野賢二

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