今年も残りわずかとなりました。年始明けバタバタと診療をしつつ、毎年4月に新卒スタッフ迎えられる歯科医院も多いのではないでしょうか? 春は変化が多い季節のため、忙しさのあまり、「受け入れ初日が、なんとなく始まってしまった」「現場に丸投げで、初日からせわしなく仕事をスタートさせてしまった」 そんなご経験はないでしょうか?
実は、新卒スタッフの早期離職の種は「初日の過ごし方」にあることが少なくありません。 今回は、新卒スタッフが安心してスタートを切れる“迎える文化”をつくるために、歯科医院における「入社式」の効用と実施事例をご紹介します。
なぜ歯科医院に「入社式」が必要なのか
入社式は、単なるイベントではありません。新卒の歯科医師、歯科衛生士、歯科助手にとって「学生からプロフェッショナルへ」意識を切り替える重要なスイッチであり、医院にとっては「定着への投資」です。

1.社会人としての自覚を促す
入社式という節目を作ることで、明確に「社会人」への意識転換が図れます。 辞令交付や院長からのメッセージを通じて、「自分はこの医院の一員として責任ある役割を担うのだ」という自覚が芽生えます。この最初の動機づけが、その後の成長スピードや仕事への姿勢に大きく影響します。
2.医院の理念や方針の共有
入社式は、医院の理念や方針、期待する行動規範を最も真剣に伝えられる場です。 「当院は何を大切にしているのか」を初日に共有することで、組織文化への理解と共感が深まります。日々繰り返し伝える必要はありますが、ここでの共有が、現場に出た際の日々の判断や行動の「軸」となります。
3.組織の一体感と「心理的安全性」の醸成

既存スタッフと新卒スタッフが一堂に会し、歓迎の意を示すことで、新卒スタッフの「心理的安全性」が高まります。 「ちゃんと歓迎されている」「ここに居場所がある」という安心感は、入職直後の不安を和らげ、「この医院で頑張っていこう」というモチベーションの源泉になります。
成功する入社式のプログラム構成
入社式の内容に決まりはありませんが、効果的な構成例をご紹介します。
- 開会の挨拶: 会の空気を引き締め、スタートを宣言します。
- 辞令交付: 名前を呼び、院長から一人ひとりに辞令を手渡します。この「個人として認められた」感覚が重要です。
- 医院理念・行動規範の説明: 動画やスライドを用い、医院の歴史や院長の想いを視覚的に伝えます。
- 先輩スタッフからのメッセージ: 先輩スタッフが登壇し、お祝いの言葉やメッセージを伝えます。診療があり、登壇が難しい場合は、事前に動画を撮影し流すことも一つの工夫です。
- 新入社員の決意表明:院長や先輩スタッフからのメッセージを受けて、明日からの業務にどのように活かしていくかを言葉にしてもらいます。新入社員は心の準備が必要ですので、開催要項とあわせて事前に伝えておくと安心して臨むことができます。
- 懇親会(ランチ会): 緊張をほぐすための交流の場です。「現場では聞きづらいこと」を質問できる空気を作ります。
- 記念撮影: 撮影した写真は、院内掲示やSNS、来年度の採用活動に活用できます。
- ワーク・接遇マナー研修の実施:座学だけでなく、ワークやロールプレイングを取り入れることで、新入社員が楽しみながら学べると同時に、午後の眠気対策にもつながります。
【事例紹介】形式を変えたら「意識」が変わった
担当している、ある歯科医院様での事例です。
以前は院内で簡易的な挨拶のみを行っていましたが、歯科医師・歯科衛生士・受付助手あわせて10名の新卒採用が決まった年、院長先生の「社会人としてのスタートを大切にしてあげたい」という想いから、ホテル会場を利用した入社式へと切り替えました。
開催の工夫
- 会場: 医院近くのアクセスの良いホテルを選定。
- 時間: 通常勤務より開始を1時間遅らせ、参加への心理的・体力的ハードルを下げました。
- 内容: 院長のメッセージに加え、外部講師による接遇マナー研修やコミュニケーションワークを実施。
参加スタッフの声
- 「しっかりした式を開いてくれて、社会人になった実感が湧いた」
- 「医院の方針が明確になり、ここで働くことに安心できた」
- 「正しい敬語やマナーを初日に学べて自信になった」
年齢の近い先輩の言葉が「安心」を生む

またこの事例では、診療との兼ね合いにより、幹部スタッフの参加が難しかったため、代わりに入社半年以内の既卒スタッフ数名にご協力いただき、「実際の現場の雰囲気」や「自分が入職当初に感じたこと」などを、新入社員に自分の言葉で伝えてくれました。
実際にこんなふうに話してくれたスタッフもいました。
最初はわからないことだらけで毎日緊張していたんですが、先輩たちが“分からないことがあったらいつでも聞いてね”と声をかけてくれて、少しずつ安心できるようになりました。
同じように悩んだ経験のある先輩が、“焦らなくて大丈夫だよ”って言ってくれたのが、すごく心強かったのを覚えています。
このような「自分も同じだったからこそ伝えられる言葉」が、新入社員にとって何よりの安心材料となり、心の距離を縮めるきっかけとなりました。
小さな工夫から始める「迎える文化」

「うちは少人数だし、ホテルなんて大げさなことはできない」 そう思われる先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、大切なのは「場所」や「規模」ではなく、「あなたを歓迎しています」という姿勢を形にして届けることです。
お金をかけなくても、できることはたくさんあります。
- 朝礼での辞令交付: 全スタッフの前で名前を呼び、拍手で迎えるだけでも立派な入社式です。
- ウェルカムボード・カード: ロッカーやデスクに、手書きのメッセージカードを置いておく。
- 特別ランチ: 初日のお昼に少し良いお弁当を用意し、みんなで食べる。
こうした小さな「特別感」の積み重ねが、スタッフの「この医院を選んでよかった」という愛着(エンゲージメント)を育てます。
まとめ
入社式は、採用活動のゴールであり、定着支援のスタート地点です。 特に新卒スタッフにとって、入社初日は期待よりも不安の方が大きいもの。そんな時に「ここは安心できる場所だ」と伝えられるかどうかで、その後の定着率は大きく変わります。
「日々の診療で手一杯で、入社式の準備までは…」 そう感じられる場合は、ぜひ外部の力も頼ってください。形式にとらわれる必要はありません。
Mr.歯科事務長では、本格的な入社式の企画・運営サポートはもちろん、小規模医院様向けの温かい受け入れ体制の設計、定着に向けたスタッフ面談やフォローアップまで、トータルでご支援しております。
「自分たちの医院にはどんな形が合うんだろう?」 そんなご相談からでも大歓迎です。医院様の想いや文化に合わせた、オリジナルの「迎えるスタイル」を一緒に見つけていきましょう。

この記事の解説者
Mr.歯科事務長
速水 千尋 Chihiro Hayami
兵庫県出身 血液型A型
ファッション事業を中心に、女性のトータルライフプロデュースを目的とする企業にて店長職を経験。百貨店への新規出店における店舗立ち上げや、ブランド認知のためのポップアップショップの企画・運営において尽力。
10年に及ぶ百貨店での勤務経験を活かして外資系ブランドのマネージャー職を経た後、心機一転、美容系の大手医療法人に転職。
現場の受付カウンセラーから配属院の主任・マネージャーを経て、複数店舗のエリアマネージャーとして活躍。提案型カウンセリングの指導、接遇マナー指導、成約率含む医院業績と患者様満足度向上のプロジェクト運営、スタッフ面談の実施、定期ミーティングの開催などを担当。最大60名のマネジメントを経験。
