自走を促すのは、性格ではなく「環境」
歯科医院の経営において「もっとスタッフが自分から動いてほしい」というお悩みは、多くの院長に共通するテーマです。しかし、自ら動けるかどうかは本人の性格以上に、マネジメントの仕組みや環境に大きく左右されます。本稿では、スタッフが主体的に動き出すための土台となる心理的安全性の重要性と、その先にある課題について整理します。
人が自走するかどうかを左右するマネジメントの仕組み
自走する特別な人種がいるわけではなく、同じ人間でも置かれた環境によって姿勢は劇的に変わります。

孤軍奮闘が招く思考の停止
私自身の経験ですが、かつてトラブルの多いチームのリーダーを務めた際、上司のサポートや相談先がない状況で踏ん張った結果、次第に思考が閉じて受け身になってしまったことがあります。心理的安全性が欠如した環境では、意欲的な人間であっても自走することが難しくなります。
役割が人を開花させる瞬間
一方で、それまで大勢の中の一人だったスタッフが、特定の役割を与えられた瞬間に驚くほどの成長を見せる場面も数多く見てきました。スタッフの主体性を引き出す鍵は、個人の資質に頼るのではなく、1人1人が動けるようなマネジメントの仕掛けを作ることにあるのです。
安心して働ける環境は、すべての出発点としての土台
スタッフが自ら動けるようになるためには、まず心理的な安全を確保することが不可欠です。
マズローの欲求階層にみる安全欲求の充足

給与や休暇制度、福利厚生などの基本条件は、単なる採用・離職対策ではありません。スタッフが心理的に安全だと感じ、仕事に集中するための最も基礎的な土台です。マズローの欲求階層説でいう生理的欲求や安全欲求が満たされて初めて、人は次のステップへ目を向けることができます。
安心はスタート地点であって動力源ではない
実際に制度を整備した医院では、スタッフの表情が前向きになり、笑顔で安定して働けるようになりました。しかし、それだけでは自発的な提案や改善行動までは生まれませんでした。環境整備によってマイナスがゼロの状態にはなっても、プラスに動き出す力までは生み出せないという現実があります。
環境整備だけではモチベーションが維持できない理由
給与アップなどの満足度は、時間が経つにつれて当たり前のものへと変わっていきます。

欲求の充足は次第に効果が薄れていく
人間は欲求が満たされると、それを当然の権利として捉え、次の欲求を持つようになります。昇給を伝えた直後は感謝されますが、半年も経てばまた次を期待する声が聞こえてくるのはこのためです。給与や福利厚生の充実は、自走して成長したいという根本的な原動力にはなりにくいのです。
押し付けではない自走の仕掛けを
心理的安全性の確保はあくまで出発点です。院長が環境を整えたのだから結果を出してほしいという期待を一方的に押し付けるのではなく、スタッフが主体的になるためのもう一手を打つ必要があります。そのためには、安心という土台の上に、仕事に対する意味や納得感を提供することが重要です。
次なるステップは意味と納得感の提供
スタッフが長く、いきいきと医院に貢献し続けるためには、安心の上にやりがいと成長の実感を構築しなければなりません。自分は何のために働くのかという理由が腹落ちして初めて、人は自立した動きを見せ始めます。次回の後編では、このやりがいを仕組みとして定着させる具体的な方法について掘り下げていきます。
この記事の解説者

MOCAL株式会社
穐澤 静香 Shizuka Akizawa
大学卒業後、大手外食産業に入社。サービスとホスピタリティを徹底して追及する企業カルチャーでサービス・ホスピタリティマインドをビジネススキルの基礎として身につける。
大手人材サービス系列の情報通信会社へ転職し、ITエンジニアとして顧客先に常駐。金融系の大規模プロジェクトへ参画し、チームマネジメント、プロジェクトマネジメントを経験する。
その後、「人事」へキャリアチェンジし、組織開発・人事戦略を担当。数百人の社員に対して人事面談やキャリア形成を支援するなど人事のプロとして活躍。さらに、グループ会社のバックオフィスマネージャーとして沖縄へ移住し本社機能立て直しやグローバル戦略促進のための仕組み作り、会社統合に伴う社風/制度の統合など、ビジネスの第一線で課題解決の豊富な実績を積む。





























