歯科医院の経営を円滑に進める上で、診療以外の行政手続きや法令遵守は避けて通れない重要な業務です。特に、新しく事務長として着任された方や、これらの行政手続きに不慣れな方にとって、厚生局と保健所の対応は非常に複雑に感じられることでしょう。
本コラムでは、歯科医師の入退職や診療体制の変更に伴う届出、施設基準の申請、立入検査への対応など、事務長が知っておくべき実務の重要ポイントを網羅的に解説しております。
法令を正しく理解し、行政機関と良好な関係を築くことは、安定した経営基盤を築くための第一歩となりますのでぜひご参考にください。
厚生局と保健所、それぞれの役割と管轄とは?
歯科医院の運営には、主に厚生労働省の出先機関である地方厚生局と、自治体が管轄する保健所の二つが深く関わります。この役割を混同しないことが、スムーズな対応の基本です。
届出・申請における管轄の違い
大まかな区別として、施設や人員の医療法上の変更に関することは保健所へ、保険診療の内容や点数の算定に関することは厚生局へ届け出ると覚えておきましょう。ただし、歯科医師の入退職のように、両方の機関へそれぞれ異なる様式で届け出が必要なケースも多く存在します。
立入検査・監査における管轄の違い
保健所が行うのは、主に医療法に基づいた立入検査です。これは医療施設としての構造設備や安全管理体制(劇薬の管理、感染症対策、X線装置の管理など)が法令に適合しているかを確認するためのものです。
一方、厚生局が行うのは、保険診療の適正化を目的とした指導や監査です。カルテ記載の整合性、レセプト請求の妥当性、届け出ている施設基準の維持管理状況などが厳格にチェックされます。安全管理や広告規制など、患者の生命や適正な情報提供に関わる内容は保健所が主導するケースが多いのが特徴です。
保健所対応のポイント:施設と人員の変更手続き
開院時に届け出た内容に変更が生じた場合、医療法に基づき速やかに診療所開設届出事項変更届などの手続きを行う必要があります。
歯科医師・スタッフの入退職に関する手続き
歯科医師や主なスタッフ(歯科衛生士、歯科技工士など)の入退職は、医療提供体制に直結するため、非常に重要な届出事項です。
- 歯科医師の入退職:変更届と共に、歯科医師免許証と保険医登録票(厚生局発行)の原本提示と写しの提出を求められるのが一般的です。新規採用者が臨床研修直後の場合は、臨床研修修了登録証が必要になることもあります。
- スタッフ人数の変更:歯科衛生士などの医療従事者の増減は、人員配置に関わるため、人数の変更を届け出る必要があります。 これらの変更届は、一般的に変更後10日以内という短い期限が設定されています。遅延すると指導の対象となる可能性があるため、着任後は早めに確認すべき項目です。
診療体制(時間・ユニット等)の変更手続き
- 診療曜日および時間の変更:開設届に記載した診療時間以外に診療を行うことは認められません。診療時間を拡大・縮小する場合や、休診日を変更する場合は必ず届け出が必要です。
- ユニット増設に伴う図面変更:診療台の増設は構造設備の変更にあたります。事前に保健所に相談し、医療法施行規則で定められた面積基準などを満たしているか確認した上で、変更後の図面を添えて届け出ます。
- X線装置の設置変更:装置の入れ替えや設置場所の変更も、別途届出が必要になる場合があります。
安全管理・広告規制・レントゲン設備の管轄
- レントゲン関連の検査:X線装置の設置・変更は保健所の管轄であり、装置の遮蔽状況や線量測定結果が適正に管理されているかを確認するための立入検査が行われることがあります。
- 劇薬や感染症対策の管理:毒物及び劇物取締法に基づく劇薬(ホルマリン製剤等)の管理簿や施錠管理、感染症法に基づくスタッフの結核検査などは保健所の管轄です。
- 医療広告ガイドラインの遵守:ウェブサイトや看板が、虚偽・誇大広告や比較優良広告になっていないかを監視・指導するのも保健所の役割です。
厚生局対応のポイント:診療報酬算定と法令遵守
厚生局への対応は、保険診療の対価としての診療報酬を適切に受け取るための手続きが中心となります。
施設基準の届出と算定開始日の厳守
特定の診療報酬(口管強、歯周病安定期治療、歯科疾患管理料など)を算定するには、施設基準の届出が必要です。
- 算定開始のルール:施設基準の届出は、原則として該当月の第一営業日までに必着していれば、その当月から算定が可能になります。郵送の場合は消印ではなく必着である点に注意し、余裕を持って提出しましょう。
- 受理状況の確認方法:かつては受理届が郵送されてきましたが、現在は発送を廃止している厚生局が増えています。受理の有無は厚生局ホームページのPDFファイル(受理医療機関一覧)で自ら確認する必要があります。Ctrl+F(MacはCommand+F)で自院名や医療機関コードを検索し、確実に受理されているか確認すると効率的です。
医療従事者情報の定期報告
毎年、あるいは定期的に、所属する医療従事者の氏名や資格、常勤・非常勤の別などを報告する義務があります。これは施設基準の人員要件を維持しているかを厚生局が把握するための重要な資料となります。また、歯科医師の入退職時には保健所と同様、保険医登録に関わる変更届が必要となります。
医療法人の変更手続きにおける注意点
医療法人の場合、定款の変更、役員(理事・監事)の変更、分院開設などは個人開設とは異なる複雑な手続きが伴います。都道府県知事の認可が必要な事項もあり、認可後に保健所や厚生局へ届け出るという順序が発生するため、事前に各管轄部署へスケジュールを確認することが重要です。
行政機関との円滑なコミュニケーション戦略
行政手続きは厳格ですが、窓口との良好なコミュニケーションはトラブルを未然に防ぐ鍵となります。
事前の問い合わせと担当者名の記録
手続きや解釈に少しでも迷った際は、自己判断せずに保健所や厚生局へ直接問い合わせることをお勧めします。電話で質問する際は、後々の食い違いを防ぐために、先方の担当者名を必ず確認し、日時・質問内容・回答を記録に残しておきましょう。担当者によって解釈が異なるケースもあるため、記録があれば根拠を持って対応を継続できます。
良好な関係構築と日頃の準備
保健所の立入検査は事前に連絡があることが多いですが、日頃から整理整頓し、安全管理マニュアルや管理簿を即座に提示できるようにしておくことが良好な関係構築に繋がります。厚生局の指導・監査については、日頃からのカルテ記載やレセプトの整合性が最大の防御となります。行政機関は医院の適正運営を支援するパートナーであるという意識を持ち、丁寧な対応を心がけましょう。
まとめ
本コラムでは、新任事務長が押さえておくべき厚生局と保健所の役割、および実務上の重要ポイントを解説しました。これらの手続きを正確に行うことは、医院のコンプライアンスを守り、安定した収益を確保するために必要不可欠です。
もし、こうした行政対応や施設基準の管理、複雑な申請手続きに不安を感じていらっしゃるようでしたら、ぜひMr.歯科事務長にご相談ください。歯科経営に特化した専門家が、貴院の行政事務を正確かつ効率的にサポートし、院長やスタッフの皆様が診療に専念できる環境作りをお手伝いいたします。

MOCAL株式会社
鈴木 学 Manabu Suzuki
大学卒業後、大手学習塾に就職。
地域ナンバーワンの教室長として、生徒・父母から絶大の支持を得る。
一日に10人以上もの父母面談を実施した経験により、コミュニケーション能力を磨く。
その後、歯科業界に転職し、複数の大手歯科医療法人の事務局にて人事・総務・広報・経理、マニュアル作成・整備業務、人事評価システムの構築など幅広く業務を担当。
訪問歯科コーディネーターの経験も有し、地域ケアマネージャー、大型施設担当者との渉外経験あり。フットワークの軽さが売りで、法人事務経験、訪問歯科経験による体験談も院長の経営判断に価値ありとの定評をいただく。
趣味はお酒と読書と草野球。

